厚生労働省も、予防線を張って「新型コロナワクチンによって、集団免疫の効果があるかどうかは分かっておらず、分かるまでには、時間を要すると考えられています。」と言っています(参考)。ファイザー製ワクチンのNew England Journal of Medicineの論文を翻訳した開業医さんのブログと、日本感染症学会の「COVID-19 ワクチンに関する提言」も参考にしてみてください。
なお、こちらの資料に、「今のところ何が明らかになっているか」がまとめてありますので興味があればご一読ください。
また、イスラエルのような超高率ワクチン接種国の報告を見ると、現在までの報道では「ほぼ治験と同等の90%以上の発症予防効果が得られている」「高齢者の重症化を予防する効果も確認されつつある」とされています。
しかし、イスラエルの1日の感染者数は意外と減っていません。実効再生産数に与える影響は現段階では机上のシミュレーションより若干低いような印象です。今後の進捗報告が待たれます。
ちなみに、既に皆さんお気付きの通り、上記の計算はランダムにワクチンを接種した場合の話です。既に各国で提唱されている通り、優先順位として
(1)死者を減らす(後期高齢者・既往歴持ち)
(2)中等・重症者を減らす(中高年)
(3)流行そのものを止める(できれば全年齢)、
の順番に接種していけば、より少ない接種数で医療崩壊の危険度を下げることができるはずです ――。
つまり、COVID-19ワクチンの接種順番問題は、かなり重要な案件なのです。
また、もしワクチン接種後の不顕性感染時のウイルス排泄量が劇的に減るのであれば、「職種別/条件別/人格別スケジューリング」というものにも効果が見込めそうです。
つまりですね ―― 「病欠禁止&リモート無しのブラック企業の社員(一昔前の医師を含む)」「満員電車を避けられない学生」「活動的な若者」「飲み会の幹事をよく行う人」「よく怒鳴る人」「陽キャ&パリピ」などなど ―― 「高実効再生産数グループ」に属している人間に速やかにワクチンを接種することで全体の実効再生産数を試算以上に減らす効果が見込めます。
逆に言うと、40代以下のボッチ・孤食愛好家などの低実効実行再生産グループに属する人にどれだけ速やかに接種を拡大しても、感染者数、そして死者数のどちらに対しても、毛ほども改善に寄与しないでしょう*)。
*)うん、私(江端)なら、ワクチン接種の順番、日本で最後でもOKです(by 江端)
これは決してマイナスの評価ではなく、むしろ「ワクチン接種時に期待される項目をワクチン接種なしに既に達成している」と捉えるべきで、これは誇るべき事であると考えます。もちろん、最終的には起こりうる後遺症を予防するためにも希望者全員のワクチン接種が必要と思います。
では、今回の最後に、私(シバタ)の疑問を挙げてみたいと思います。
(疑問1)政府はワクチンの対象者を16歳以上に限定しました。さて、15歳以下にワクチンを打たなくても大丈夫なのでしょうか?
子供の人口は2019年10月時点で、全人口比の12.9%≒13%です。上記計算で全人口の8割接種を目標にした場合、既に15歳以下人口である13%がワクチンを打たないことが確定していることになりますので、残りの87%のうち、(100-13)×□÷100=80を解いて、□≒92%となり、ワクチン接種対象(16歳以上)の実に92%が接種しないと、全人口の8割接種を達成できないということになります。
全人口の5割接種達成を目標とする場合では、(100-13)×□÷100=50を解いて接種可能人口の57%への接種が必要です。
取りあえず、ワクチン接種で集団免疫を獲得することを目標にした場合、子供のワクチン接種をしないというのは流行の阻止という意味ではそれなりに大きなハンディキャップになりそうだと言えそうです。
(疑問2)安全面ではどうでしょうか?
取りあえず、これまでCOVID-19での小児死亡例はゼロです。また、小児の後遺症による個人および社会的損失は現在数値化されておりません。なので、15歳以下にワクチンを打たない、という戦略には、一定の説得力があります。
小児をワクチンの対象にしないのであれば、小児の集団(恐らく学級や塾の単位)でクラスターが最低数年は断続的に発生し続けることが予想されます。
でもって、ここがキモなのですが ―― 若干意地悪く表現すれば、「小児における集団免疫獲得は、ヒト-ヒト感染の流行に任せる」というのが厚生労働省の方針のようです。
つまり、“16歳以上の国民皆ワクチン接種”の完了後に「子どもどうしは、お互いにジャンジャン感染し合いなさい」ということです(そんな文言は一行も出てきませんけど、私にはそう読めるのです)*)。
*)この辺、江端(×シバタ先生)が、かなり加筆して(盛って)います。⇒EE Times Japan編集部の責任編集ですので、批判/ご意見は必ず当編集部宛てにお願いします。
「日本全体における集団免疫の形成」という意味では小児も含めるべきですが、ゴールを「重症例や死亡例を減らす」「医療崩壊を止める」という点に集約し、リスクvsベネフィットの比をなるべく大きくするという方針のもとに決定されたのであれば、現時点において、これは妥当な戦略である気がします。
最終的な小児のワクチン接種の要否は、全体の死亡率が低下した後に、COVID-19の小児例における後遺症の程度と頻度の議論に注目が集まるころに再検討されるような気がします。
小児集団においてCOVID-19の流行を行動変容のみで対応するという現段階での決定は、もしかしたら「『COVID-19は将来的にただの風邪になる』ことに対して長期的な布石を打つ」「低死亡率集団を利用した自然集団免疫作戦の実証実験」という深謀遠慮の結果かもしれません ―― 私の考えすぎかもしれませんけど。
では、前半はここまでにしたいと思います。
後半は、子宮頸がんワクチン問題、変異株、(私も大概しつこいですが)ワクチン接種と組み合わせたPCR全数検査机上シミュレーション、マスク有用性再考、この冬のインフルエンザ感染者数1000分の1倍の件、ウイルス感染研究費問題、そして「東京五輪」について、語らせて頂きたいと思います。
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