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あの医師がエンジニアに寄せた“なんちゃってコロナウイルスが人類を救う”お話世界を「数字」で回してみよう(65)番外編(3/10 ページ)

» 2021年02月26日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

ワクチン接種を強く勧めることがタブー化した国、日本

 冗談はさておき、ワクチンの接種についての忌避感が拭えない背景には、私たち日本人経験してきた苦い経験があるからです。感情が風化するにはあまりに短く、詳細を思い出すにはちょっと長い時間が経過しているので、(個人的な勉強のためにも)ざっとおさらいしてみたいと思います。

 まず、1970年代に問題となった種痘禍問題です。種痘とは、天然痘ワクチンのことです。

 日本では1955年以降に天然痘の発生は確認されていなかったのですが、海外からの輸入感染症の可能性を考慮し、1976年までの約20年間、国改発生件数ゼロを横目に見ながら、種痘の強制接種を継続していました

 ところが、種痘は副反応がかなり強く、ワクチン接種が原因で数百人が脳炎を発症し、死亡または障害を残しました。国内での天然痘根絶後に漫然と強制接種を継続し、副反応への対応および対策を取らなかった事に対して国は敗訴し、賠償が確定しました。

 天然痘撲滅の陰には、風化させてはならない犠牲があったのです。以後、罰則付き強制接種という行政の強権は忌避されるようになりました(京都産業大学のHP内に判例へのリンクがありました。一審判決はこちら、控訴審判決はこちら)。

 次にインフルエンザワクチンです。かつてインフルエンザワクチンは接種が義務でした。

 いわゆる学童集団接種というやつです。1カ所に同級生が一斉に呼び出され流れ作業で接種された経験がおありでしょうか?1957年のアジアかぜを契機に接種が拡大され、1977年に義務化。かつてインフルエンザ予防接種の接種率は100%近かったそうです。

 ところが、接種後に高熱を出して後遺症が残ったとして裁判が続出し、国が敗訴するケースが出たため方針は転換され、1987年には希望者接種に、1994年には任意接種と尻すぼみになりました。

 恐らくは種痘のイメージから来る悪感情と、あと、ぶっちゃけ予防接種後にもインフルエンザにかかるときはかかるので、予防効果への期待よりも「やる意味あるのかなぁ」という感情的疑問のほうが勝った結果、接種希望者は徐々に低下し1990年代の摂取率は数パーセントになりました。

 ただ、振り返って分析してみると、この学童集団接種は年間数万人の死亡を防止していたという報告参照*)も存在します。集団としての利益と個人の不利益をどのように評価して行動を選択すべきか、という問題提起は、実はかなり以前から存在しています。

*)これは学童からの、高齢者、乳幼児(弟妹)へのインフルエンザの感染による死亡者を含んでいるようです(江端)。

 ワクチンの信頼性を失墜させた事件はまだあります。MMRワクチンです。

 MMRワクチンとは麻疹、おたふくかぜ、風疹ワクチンを混ぜた三種混合ワクチンですが、このうちおたふくかぜワクチンが問題でした。副反応で無菌性髄膜炎になる子どもがいたのです。結果としてMMRワクチンは中止になりました。今はおたふくかぜワクチンを抜いて、MRワクチンとして現在に至っています。

 これらの問題がきっかけとなり、国民、特にママ友ネットワークの間にワクチン不信論が蓄積し親から子供へ受け継がれていくことで「ワクチン怖い」という感情の刷り込みが現在まで連綿と続いている、というのが今の日本の現状です。

 もちろん、実際に被害が出ていますので感情としては正しい反応ですし、保障も情報提供も足り無かったのはその通りだと思います。これを反映してか、1994年の予防接種法改正では形の上では定期接種の表現は残っていますが、強制力は更に緩和されて、定期接種の実体は「努力義務」に改正されています。

 結果として、各ワクチンの接種率は低下し、新規のワクチン導入は諸外国より遅れ、残念なことに各国とのワクチンギャップは広がる一方です。

 詰まる所、マクロ(集団)として見た時の「ワクチンの有効性」は絶大です。同時に、ミクロ(個人)としてワクチンの副作用の被害者の実体から見れば、「ワクチンに対する恐怖」もまた絶大なのです。

 そして、「COVID-19ワクチンが、これまでのワクチンと同等以上に安全である」と言える、根拠も証拠も実績も、現時点では何もありません。

 ワクチン接種は、しても、しなくても、必ずリスクが伴う―― これは、仕方がないことなのです(このワクチン副作用については、次回、「子宮頸がんワクチン問題」で再度取り上げたいと思います)。

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