「アデノウイルスベクターワクチンについてはアストラゼネカ社が先行しているし、それだけ書けば良いかなー」と思っていたら、特大の落とし穴が空いていました。
なんと、中国とロシアが開発したコロナワクチンは、ヒト由来のアデノウイルスをベクターとして使っていたのです*)。
*)ヒト由来のアデノウイルスには最低でも51種類の型があります。中国は5型、ロシアは5型と26型のアデノウイルスを利用しています。
もちろん増殖性を抑える遺伝子改変処理を行っているので危険性はありませんし、過去に研究目的に使い倒されてきた、なじみ深いベクターであることは世界中の研究者が同意すると思います。
しかし……この5型のアデノウイルスは普通のカゼのウイルスです。中国や米国では人口の4割が、アフリカでは人口の8割が感染し抗体を持っている可能性があるというのです(参考)。
つまり ―― 中国・ロシアのワクチンで、新型コロナウイルスに対する抗体が得られない人が、大量に発生するかもしれない ―― ということです。
先程述べたように、過去に感染したことがあるウイルスを運び屋(ベクター)としてワクチンに加工して注射しても、抗体にトラップされて細胞に感染することができません。
このため、中国やロシアの理論上の有効率はアストラゼネカ社製のチンパンジー由来アデノウイルスより相当低く見積もられます。
これに反論するかのように、ロシアで行われた中国産ワクチンの臨床試験の結果は、9割を超すという報告があるのですが ―― 「中国産ワクチンをロシアで試験」というこのなんとも言い難い組み合わせに、ものすごい皮肉を感じるのは、私だけでしょうか?
判断は皆さんにお任せしたいと思います。ちなみに、ロシアの26型のアデノウイルスは比較的マイナーで市中の感染率は低いです……が、あなたがこれまでの人生で5型・26型のいずれのアデノウイルスにも感染していないという保障は、どこにもありません。
つまるところ、COVID-19のワクチンというのは、「ロシアンルーレット」という側面があるのです ―― ロシアだけに……。
ご自分のパソコンを使って、ファイバー社やアストラゼネカ社のワクチンを、インシリコ(in silico)*)解析で追試してみたい方(いるかな?)は、こちらをご覧ください。
*)コンピュータを用いて、計算で薬効を予測して行う製薬のこと。in vivo (生体内で)や in vitro (ガラス、すなわち試験管内で)などに準じて作られた用語で、「シリコン(半導体チップ)内で」という意味。
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