さて、前置きが長くなってしまったが、本題に入りたい。冒頭で述べた通り、車載半導体が供給不足となり、これは長期化しそうな気配である。また最近では、米Qualcommが設計し、TSMCが最先端プロセスで製造しているスマートフォン用のプロセッサが足りないという。それだけではなく、世界中で、あらゆる半導体の供給が足りないという話が日常茶飯事のように聞こえてくる。
そこで、どの半導体が足りないのかと思って、世界半導体市場統計(WSTS)のデータを見てみたが、各種半導体の出荷額も(図3)、出荷個数も(図4)、2020年第2四半期に若干落ち込むものの、すぐに回復して増大している。特に、メモリ、ロジック、アナログの出荷個数は、四半期としては過去最高を記録しており、このグラフからは「半導体が足りない」ということは分からない。
そこで今度は、DRAMとNAND型フラッシュメモリ(以下、NAND)のスポット価格および大口取引価格に注目してみることにした。というのは、ある半導体が足りない場合、その半導体の価格が高騰する傾向にあるからである。そこで、驚くべきことが分かった。
図5に、2020年12月31日の価格で、それぞれ規格化した各種DRAMのスポット価格推移を示す。どのDRAMの規格化スポット価格も、2021年に入って高騰している。その高騰は、1月中旬と2月下旬の2段階で価格が上昇している。
そして、最も高騰しているのは、DDR3の2Gビットの2.32倍、次いでDDR3の4Gビットの2.02倍となっている。DRAM価格がこのような短期間で2倍を超えるというのは、異常現象である。一方、最も容量の大きなDDR4の16Gビットは1.23倍、次いでDDR4の8Gビットは1.27倍であり、どちらかというとレガシーなDRAMのスポット価格が高騰している傾向にある。
ここで、DDRとは、Double Data Rateの略で表されるDRAMの規格で、DDR3はDDR2の2倍の転送レート、DDR4はDDR3の2倍の転送レートを意味する。要するに、DDRの数字が大きい方がデータの転送速度が速いというわけだ。
また、DRAMの価格には、スポット価格と大口取引価格の2種類がある。スポット価格は、スポット市場と呼ばれる、ブローカー経由で取引されるDRAMの価格であり、大口取引価格のような正規ルートの取引ではない。正規ルートではないから、裏ルートの価格と呼ばれている。
スポット市場での買い手は、大口取引ができない中小モジュールメーカーやパーツメーカーが多い。秋葉原などで部品として売られているのは、間違いなくスポット市場で仕入れたメモリである。スポット市場では、土日祝日などを除く営業日の毎日、取引が行われ、価格が決められる。そのボリュームは、取引されるDRAM全体の10%程度といわれている。
そのスポット価格が高騰しているわけだが、大口取引価格はどうなっているだろうか(図6)。スポット価格と同様に、2020年12月31日の価格で規格化した各種DRAMの大口取引価格を見てみると、スポット価格ほどではないものの、価格が上昇しているものが多い。
最も高騰しているのは、DDR2の512Mビットで1.22倍、次いでDDR2の1Gビットで1.19倍となっている。一方、最も容量の大きなDDR4の8Gビット(1G×8)は1.05倍、次いでDDR4の8Gビット(512M×16)は1.06倍にとどまっており、スポット価格と同様、レガシーなDRAMの大口取引価格が高騰している傾向にある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.