ところが、SSDコントローラーの供給不足が発覚した。その第1の原因は、TSMCの先端プロセスが逼迫していることにある。その際、TSMCの12nmプロセスを必要とするSSDコントローラーが、どの程度の優先順位で製造されるかが問題である。もし、水不足によってTSMCの工場稼働に何らかの問題が生じたら、その被害は計り知れない。そして、それは、SSDコントローラーに限らず、あらゆる半導体に甚大な影響を及ぼすことになる。
第2の原因は、米テキサス州が突然の寒波により停電し、Samsungのオースティン工場が生産停止に追い込まれてしまったことにある。TrendForceの調査では、この停電は2月中旬から3月2日まで続き、Samsung がOEM生産を行っていたClient用SSDコントローラーの供給が止まってしまったという(TrendForce:プレスリリース)。
その結果、TrendForceは、2021年第2四半期に、Enterprise用SSDが0〜5%、Client用SSDが3〜8%、NAND全体で3〜8%、それぞれ、値上げすると予測している(図17)。
結局のところ、あらゆる種類のNAND価格が横ばいである理由は、うまく説明できなかった。NANDには、DRAMで見たようなコロナによる“Stay Home”の巣ごもり需要の特需は無く、需要と供給がうまくバランスした状態が続いていたとしか言いようがない。しかし、その微妙なバランスは自然災害によって崩れることになるだろう。
ここ最近、半導体の供給不足のニュースを見ることが多い。本稿では、DRAMとNAND価格の分析から、特にレガシーなDRAMのスポット価格が異常に高騰していることを明らかにした。その理由は、コロナによる“Stay Home”の巣ごもり需要により、各種家電品の売れ行きが好調なことから、レガシーなDRAMが不足していると推論した。
一方、NAND価格は横ばいが続いているが、TSMCの先端プロセスのキャパシティーが逼迫していること、テキサスの突然の寒波による停電でSamsungのAustin工場が長期間に渡って生産停止になったことから、SSDコントローラーが供給不足となっている。そのため、2021年第2四半期には、SSDの供給が滞り、その価格が上昇する見込みである。
最後にもう一度、グレタさんの警告を思い出そう。気候変動リスクを甘く見てはいけない。台湾に雨が降らないだけで、世界中のエレクトロニクス産業が壊滅的な事態に陥るのである。台湾に雨が降るよう、祈るしかない(過去の天気で調べてみたら、22日に雨が降ったようです)。
1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。
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