ここまでに分かったことは、DRAMではスポット価格も大口取引価格も高騰していること、特にスポット価格の高騰が著しいこと、さらにレガシーなDRAM価格が高騰している傾向にあることである。
では、もう一つの代表的なメモリであるNAND価格はどうなっているだろうか。図7に、2020年12月31日〜2021年3月17日における各種NANDのスポット価格の推移を示す。
見ての通り、どのNANDも、「何でこんなにDRAMと違うんだ!」と思うほど、ほとんど価格の変化が無い。唯一、3次元のTLC(Triple Level Cell)の1T(テラ)がやや価格が上昇傾向にあるだけである。もし、DRAMのスポット価格の時のように、2020年12月31日の価格で、それぞれ規格化したら、ほぼ全てのNANDのグラフが一直線になってしまい、判別がつかなくなるだろう。
ここで、SLCはSingle Level Cell、MLCはMulti Level Cell、TLCはTriple Level Cellの略で、一つのメモリセルにSLCは1ビット、MLCは2ビット、TLCは3ビットを記憶することができる。
NANDのスポット価格はほぼ一定であることが分かったが、大口取引価格はどうだろうか(図8)。こちらは、スポット価格以上に、“まるで定規で直線を書いたように”価格は一定である。
なぜ、DRAM価格は高騰しているのに、NAND価格は一定なのか? 特に、レガシーなDRAMのスポット価格の異常な高騰の原因は何なのだろうか?
もし、DRAMの出荷個数が減少していたら、需要と供給のバランスにより、DRAM価格が高騰することが起こり得る。そこで、まず、DRAMの出荷額と出荷個数を確認しておこう(図9)。DRAMは、出荷個数の挙動から、以下の四つの時期に分けることができる。
1)1991年〜2003年:緩やかに出荷個数が増大する時期
2)2003年〜2010年:急激に出荷個数が増大する時期
3)2010年〜2018年:出荷個数が年間150億個でほぼ一定の時期
4)2019年以降:再び出荷個数が増大する時期
2010年〜2018年にかけて、出荷個数が約150億個でほぼ一定になるのは、DRAMメーカーが淘汰され、最終的にSamsung、SK hynix、Micronの3社に絞られたことによると考えている。
ところが、2019年以降、再び出荷個数が増えだしたのは、DRAMの主戦場がPCからモバイルを経てサーバへ移行し、上記の3社がそこで覇権を握るためにインプットウエハーを増大させたからだと解釈している(関連記事:「主戦場がサーバに移ったDRAM大競争時代 〜メモリ不況と隣り合わせの危うい舵取り」)。実際、2020年にDRAMは、過去最高の約189億個が出荷され、今後も増大しそうな勢いである。
また、現在入手できる2021年1月までのWSTSのDRAM出荷額と出荷個数のデータを見ても、2021年に入ってDRAM出荷個数が減少する気配は見当たらない(図10)。
ついでにNANDの出荷額と出荷個数も確認しておこう(図11)。NANDは21世紀に入って市場が立ち上がり、ほぼ直線的に出荷個数が増大してきた。ところが、2016年以降、出荷個数の伸びが鈍化し、ほぼ横ばいになっていることが分かる。
これは、2016年から、NANDの構造が2次元から3次元に移行したことに起因していると考えている。というのは、3次元の時代に集積度を上げるには、メモリセルを縦に積むことになるため、NANDのチップサイズはあまり変わらないからだ。従って、3次元NANDのムーアの法則とは、ひたすら縦にメモリセルを積むことであり、それ故、3次元NANDの出荷個数は、あまり変わらないということになると理解している。
ここで、2021年1月までのNANDの出荷額と出荷個数を見てみると、2018年後半からメモリ不況に突入して出荷個数が減少し、2020年に入ってコロナ騒動で再び出荷個数が減少しているが、それを除けば、おおむね毎月10億個が出荷されているといえる(図12)。
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