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高騰するDRAM価格と横ばいのNAND価格、“SSDコントローラー不足”も明らかに湯之上隆のナノフォーカス(36)(1/5 ページ)

DRAMとNAND型フラッシュメモリの価格を分析した結果、レガシーなDRAMのスポット価格が異常に高騰していることが分かった。また、SSDコントローラーが不足していることも明らかになった。なぜ、このような事態になっているのかを推測する。

» 2021年03月23日 11時30分 公開

グレタ・トゥーンベリさんの警告が現実に

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 2021年に入った途端、車載半導体の供給不足が発覚し、自動車メーカーは軒並み減産を余儀なくされている。この原因は、昨年2020年3〜6月にかけて、新型コロナウイルスの感染拡大により世界中でクルマ生産が大きく落ち込んだため、ドイツInfineon Technologies、オランダNXP Semiconductors、日本のルネサス エレクトロニクスなどの車載半導体メーカーが、TSMCへの生産委託を大幅にキャンセルしたことにある。

 ところがTSMCには、世界中から生産委託が殺到しているため、車載半導体がキャンセルした穴は、すぐに別の半導体で埋まってしまった。それ故、クルマ生産が回復した2020年秋〜冬に、TSMCへの車載半導体の発注量を増やそうとしても、TSMCには応じる余裕がなく、その結果、ことしになって世界中でクルマ生産に支障が出てきたわけである(参考:JBpressのサイトに移行します)。

 さらに、これに追い打ちをかける自然災害が3件発生した。

1)2月13日の23時頃、福島県沖でマグニチュード7.3の地震が発生し、震度5弱を観測した茨城県にあるルネサス那珂工場は約3時間停電して稼働が止まった。ルネサスは2月22日のニュースリリースで、「2月21日に地震発生前の生産能力(生産着工ベース)で復旧を完了した」と発表した(ルネサス那珂工場、前工程の生産を再開)。しかし、約3時間の停電による数百台以上の製造装置への影響は大きく、“生産着工ベース”で震災前に復帰したとしても、“出荷ベース”で元に戻るには、最低でも1カ月はかかると推測している*1)

*1)そのルネサス那珂工場300mmラインで3月19日に火災が発生した(「ルネサス那珂工場火災、「大変厳しい状況だが、1カ月以内の生産再開へ全力」)。同社は3月21日に記者会見を開き「1カ月以内の生産再開を目指す」と発表したが、相当な困難が予想される。また、この火災で車載半導体の供給不足がより深刻化すると思われる。

2)米国のテキサス州に2月12日、突然の寒波が襲来し、Austin Energyが2月16日に計画停電を行ったため、同州にあるSamsung Electronics、InfineonおよびNXPなどの半導体工場が停止した(NXPやInfineonがテキサスの停電で生産を停止)。この停電は長引いており、上記の3社合計で、12インチウエハーで月産11万5000枚の生産が止まっているという。車載半導体だけでなく、Samsungのロジック半導体の生産に被害が出ている(これについては後述する)。

3)TSMCの半導体工場がある台湾が、2020年夏からの少雨のため水不足が深刻になっている(日経新聞2月25日)。TSMCの半導体工場では1日に20万トン弱の水を使用するが、給水車の利用を検討している。ただし、給水車1台が運べる水は20トンしかないため、水不足が長引けば、TSMCの半導体生産全体に甚大な被害が出る可能性がある。当然、車載半導体の供給不足にも大きな影響が出ることになる*2)

*2)TSMCは水不足の危機に対処するために水タンカーを100隻購入したことが報道された(参考)。しかし、タンカーでの水の輸送には時間がかかるため、TSMCの半導体工場の稼働は、綱渡り状態になるかもしれない。

 このように、地震や寒波による停電、少雨による水不足など、自然災害によって半導体工場が停止、もしくは綱渡りの稼働を強いられている。この中で、寒波による停電と少雨による水不足は、もしかしたら地球温暖化による気候変動に原因があるかもしれない。

 スウェーデンの環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんは15歳のとき、2018年12月12日に開催された第24回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP24)のスピーチで、地球温暖化によって引き起こされた危機は非常に深刻で、人類は生存の危機に直面しており、「あなた方は、自分の子どもたちを何よりも愛していると言いながら、その目の前で、子どもたちの未来を奪っています」という警告を発した(図1)。半導体業界では、その警告が現実味を帯びてきたということである。

図1:グレタ・トゥーンベリさん(画像はご本人のFacebookから)

一般汎用技術(GPT)としての半導体

 半導体は人類の文明にとって欠くことができない工業製品である。2018年には総額4688億米ドル、数にして1兆個を超える半導体が出荷された(図2)。世界の総人口は約76億人であるから、世界平均で、1人当たり1年間で、約62ドル(約6800円)、132個の半導体を購入している計算になる。

図2:世界半導体出荷額と出荷個数(〜2020年) 出典:WSTSのデータを基に筆者作成(クリックで拡大)

 この平均値は、途上国も先進国も、生まれたての赤ちゃんから100歳を超えた高齢者まで、全てならした値である。従って、今この記事を読んでいる、先進国に分類される日本人で、働き盛りの方なら、上記の3〜4倍の半導体を普通に購入していると推測できる。例えば4倍とすると、1人当たり1年間で2万7200円、528個を買っていることになる。

 要するに、私たちは(普段は多くの人々が気づいていないかもしれないが)、多数の半導体に囲まれ、その恩恵に浴して、仕事を行い、生活を送っているのだ。そのような技術を、一般汎用技術(General Purpose Technology、GPT)と呼ぶ。

 GPTは、産業横断的に使用され、さまざまな用途に使用される。GPTの具体例としては、電力・電気、鉄道、自動車、インターネットなどが挙げられる。半導体も、その仲間入りをしたと思っている。

 その半導体産業が地震や気候変動リスクに直面している。各半導体メーカーは、それらの自然災害リスクに備えなくてはならない。それと同時に、グレタさんの警告を真摯に受け止め、半導体製造時に排出される地球温暖化ガスの大幅な削減を可及的速やかに行う必要がある。

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