いよいよ、なぜ、レガシーなDRAMのスポット価格が高騰するかについて、答えを述べなくてはならない。筆者の推論を導くためにグラフを1枚追加する(図13)。このグラフは、2016年1月〜2021年1月までの各種ロジック半導体の出荷個数の推移を示したものである。
少々脇道にそれるが、2020年の3〜8月にかけて車載用ロジック半導体の出荷個数が大きく落ち込んでいる。これは、コロナの感染拡大によってクルマの需要が“蒸発”し、クルマを減産したため、それに伴って車載用ロジック半導体の出荷個数も減少したことを意味している。
しかし、2020年秋以降、車載用ロジック半導体の出荷個数は回復し、2021年1月にはコロナ前の水準を超えている。ところがそれでも尚、クルマの減産が続いている企業が多い。筆者は、クルマがCASE(Connected/Autonomous/Shared/Electric)の時代を迎え、特にConnectedとAutonomousにより、もっと多くの、しかも先端ロジック半導体が必要で、それが調達できないことがクルマの減産の原因になっているとにらんでいる。
さて、クルマの問題は横に置いておき、あらためて図13を見てみよう。この図で最も顕著なのは、2020年の初旬、つまりコロナ騒動が始まった頃から、コンシューマー用のロジック半導体の出荷個数が急拡大していることである。
突然人々はコロナの時代を迎えることになり、“Stay Home”を余儀なくされた。その巣ごもり需要により、冷蔵庫、洗濯機、空気清浄機、ゲームなど、家電製品がいつも以上に売れるようになった。その家電製品には、先端ではなく、レガシーなDRAMが必要で、それがレガシーDRAMのスポット価格の高騰の原因になったのではないかと筆者は推測している。
しかし、コロナによる“Stay Home”の巣ごもり需要だけでは、NAND価格が横ばいであることが説明できない。これには別の原因を探さなくてはならない。その原因を説明するために、NANDがどのような用途に使われているかを図14に示す。ここで、単位はビット市場シェアである。
2020年に、NANDのビット市場は、大きい順から、スマートフォン(36%)、SSD(30%)、メモリカード(13%)、タブレットPC(11%)、コンシューマー(7%)だった。
米国政府の制裁により、2020年9月15日以降、中国のHuaweiがスマートフォン市場から撤退を余儀なくされた。しかし、その穴は、あっという間に、Samsung、Apple、XIAOMI、OPPO、VIVOが埋めてしまった。従って、NANDの最も大きなビット市場であるスマートフォンについては、価格変動を起こすような問題は起きていないと考えられる。
一方、NANDの2番目に大きなビット市場を占めるSSDはどのような状況にあるだろうか。まず、2020年第4四半期のNANDの企業別売上高シェアは、Samsung(32.9%)、キオクシア(19.5%)、Western Digital(WD、14.4%)、SK hynix(11.6%)、Micron Technology(11.2%)、Intel(8.6%)となっている(図15)。
これらNANDメーカーにとって、SSDは最も付加価値の高いビジネスである。そのSSDには、基幹部品としてのNANDの他に、キャッシュメモリとしてDRAMおよび、ロジック半導体に分類されるコントローラーが必要である。そして、SSDの性能は、コントローラーが握っていると言っても過言ではない。
では、NAND各社は、SSDのコントローラーをどうやって設計し、製造しているのだろうか? まず、多くのNANDメーカーが、SSDコントローラーの設計を台湾PhisonやSilicon Motionに委託している。これらSSDコントローラー専門のファブレスは、TSMCに生産委託しており、最先端コントローラーは、何とTSMCの12nmで製造されている(参考:PC Watchのサイトに移行します)。一方、WDだけは自社で設計している模様だが、やはり製造はTSMCに委託している。
唯一、Samsungだけは、自社で設計し、自社のロジックファウンドリーで製造しているが、そのプロセスは何と、8nmであるという(参考:PC Watchのサイトに移行します)。Samsungの8nmと言えば、TSMCのArF液浸バージョンの7nmとほぼ同等である。
TSMCの12nmにしろ、Samsungの8nmにしろ、SSDコントローラーの製造に、これほど先端プロセスが使われていたとは驚きである。もう1〜2年もしたら、SSDコントローラーの製造にEUV(極端紫外線)リソグラフィが使われることになるのかもしれない。
そして、SSDコントローラーを自社で設計できるか否か、さらには自社で製造できるか否かが、SSDビジネスの競争力に大きく関係している。図16は、2020年第2四半期のSSDの出荷バイトシェアであるが、自社で設計も製造もできるSamsungがEnterprise用SSDで39.4%を独占している。また、自社で設計しているWDがClient用SSDでトップシェア(28.9%)を占めている。やはり、設計できること、製造できること、そういう能力がある企業が覇権を握るのである。
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