東京大学は、神戸製鋼所およびコベルコ科研と共同で、Snを添加したIGZO材料(IGZTO)を用いた3次元集積メモリデバイスを開発、動作実証に成功した。プロセッサの配線層上に大容量メモリを混載することが可能となる。
東京大学生産技術研究所の小林正治准教授らは2021年6月1日、神戸製鋼所およびコベルコ科研と共同で、Snを添加したIGZO材料(IGZTO)を用いた3次元集積メモリデバイスを開発、動作実証に成功したと発表した。プロセッサの配線層上に大容量メモリを混載することが可能になる。
IGZTOは、神戸製鋼所および、コベルコ科研がフラットパネルディスプレイ向けに開発した高移動度の酸化物半導体材料である。今回は、厚みが8nmと極めて薄いIGZTOチャネルと、誘電率が高いHfO2ゲート絶縁膜を用い、トランジスタを試作した。トランジスタの移動度は、従来のIGZO材料に比べて2倍以上も高い約20cm2/Vsを達成したという。
第一原理計算を用い、高い移動度を実現できた起源について調べた。この結果、Snを添加したことにより、アモルファス構造でも伝導電子が感じるポテンシャルの揺らぎが小さくなったためだと分かった。
左は試作したIGZTOトランジスタのチャネル部の断面TEM像。中央はIGZTOトランジスタのドレイン電流−ゲート電圧特性。右はIGZTOトランジスタとIGZOトランジスタの実効移動度の比較 (クリックで拡大) 出典:東京大学他さらに今回、HfO2材料でもIGZTOをキャップ材料とすることで、400℃以下の温度で強誘電性を発現させることができた。IGZTOの熱膨張係数が小さく、HfO2材料の結晶化アニール中に、強誘電相形成を促すプロセスひずみが印加されたため、と分析している。さらに、IGZTOとHfO2は共に酸化物材料であり、界面に欠陥や酸素空孔が生じにくく、書き換えを繰り返すごとに特性が変動する「wakeup現象」もなかったという。
小林氏らが開発しているHfO2材料はこれまで、500℃以下で強誘電性を発現させることが困難だったという。しかも、金属電極と強誘電体HfO2の間には欠陥や酸素空孔が形成されやすいなど、いくつかの課題もあったが、今回の研究でこれらを解決した。
試作したHfO2キャパシターの断面TEM像と、400℃の結晶化アニールで作成した強誘電体キャパシターの分極電荷特性および、400℃の結晶化アニールで作成した強誘電体キャパシターの分極電荷特性 (クリックで拡大) 出典:東京大学他研究チームは、IGZTOを用いたFETとHfO2キャパシターを集積したメモリデバイスを試作し、書き込みや読み出しの動作を検証した。これにより、トランジスタのゲート電圧を大きくすればトランジスタの駆動力が上がり、メモリ動作が早くなることを確認した。キャパシターの面積を小さくすることで充放電する電荷量を小さくし、メモリ動作が早くなることも確認した。動作シミュレーションを用いて、「ナノ秒」単位で動作することを確認できたという。
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