東京工業大学は、水中で電気刺激を与え、色素などの有機化合物を自在にプラスチックやガラスといった基板上に塗布する技術を開発した。
東京工業大学物質理工学院応用化学系の稲木信介准教授とYaqian Zhou大学院生(博士後期課程3年)らは2021年5月、水中で電気刺激を与え、色素などの有機化合物を自在にプラスチックやガラスといった基板上に塗布する技術を開発したと発表した。
有機エレクトロニクスは、プラスチック基板などの上に有機化合物の薄膜を形成し、素子を作り込む。現在は薄膜を作製する方法として、主に真空蒸着法や有機溶媒を用いたスピンコート法などが用いられている。この時、任意の位置や形状に成膜をするためには、不要な部分を覆うマスクなどが必要であった。
稲木氏らは、有機化合物の薄膜を基板上に塗布する方法として、ワイヤレスで任意の位置に電位を加えられるバイポーラ電極の仕組みを活用した。有機化合物を内包させたミセルに、水中で電気刺激を与えて崩壊させ、内包した分子を放出する。これにより電極基板表面で任意の位置や形状に、有機化合物を塗布することが可能となった。従来のように不要な部分を覆って保護する必要はなく、環境にも優しい手法だという。
実験では、ビニルカルバゾールモノマーやフタロシアニン色素、凝集誘起発光性分子などの機能性有機化合物を、あらかじめミセルに内包させておき、ITO透明導電ガラスの表面に任意の形状で塗布した。
具体的には、外部電極から水溶液中に電場を発生させると、ITO透明導電ガラスがバイポーラ電極として機能する。この時、ITO透明導電ガラス上には、傾斜的あるいは局所的など、電位分布を自在に発生させることができる。ガラスに塗布された厚み数マイクロメートルの傾斜膜は、発生させる電場の大きさで制御できる。電位分布により、徐々に厚みが変化していることも分かった。局所塗布膜は、電場の分布を変えることで成膜面積を制御できるという。
今回の研究成果により、バイポーラ電気化学にミセル電解法を組み合わせる手法は、導電ガラス基板上に有機化合物の製膜を行う有効な手段であることを示した。この成膜プロセスは、さまざまな有機化合物やフラーレンなどの炭素材料、高分子化合物などにも適用できるとみている。
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