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次世代のADASを実現する“4D”レーダーチップイスラエルのVayyar Imaging

現在さまざまなメーカーが、自動車業界によって定義された「レベル4」などの高度な自動化にも対応可能な、新しいセンサーの開発を進めているところだ。そのうちの1社であるイスラエルのセンサーメーカーVayyar Imagingが、新たにシングルチップ4Dイメージングレーダー「XRR」を発表した。

» 2021年07月01日 09時30分 公開

 運転支援システムの“目”が、カメラやLiDARの性能範囲を超える勢いで向上している。現在さまざまなメーカーが、複雑な運転シナリオや、自動車業界によって定義された「レベル4」などの高度な自動化にも対応可能な、新しいセンサーの開発を進めているところだ。

 その中の1社であるイスラエルのセンサーメーカーVayyar Imagingが開発したのがADAS(先進運転支援システム)向けのシングルチップ4Dイメージングレーダー「XRR」だ。XRRは最大検出範囲300m、180度の視野角を実現し、外付けプロセッサなしで動作可能だという。

XRRチップを搭載したボード 出典:Vayyar Imaging

48素子のMIMOアンテナアレイを内蔵

 XRRチップの”4D機能”とは、距離や相対速度、物体の方位角、道路面からの高さを測定可能であるということを示す。

 Vayyar Imagingのバイスプレジデントであり、自動車部門の責任者を務めるIan Podkamien氏は、米国EE Timesのインタビューに応じ、「48素子のMIMOアンテナアレイは、新しいプラットフォームをサポート可能な上、『AEC-Q100』や『ASIL-B』にも準拠する。RFICの多機能化によって、LiDARセンサーなどの外付けデバイスが不要になるため、ケーブルのコストを削減できるだけでなく、消費電力の低減や、インテグレーションの手間を省くことなども可能だ」と主張した。

 マルチレンジのXRRチップは、レーダー周波数帯76G〜81GHzで動作し、分離帯や縁石、駐車車両などの静止障害物と、走行車両をはじめとするさまざまな危険性とを識別することが可能だ。

 XRRチップは、駐車場などで低速走行する場合、超短波/短距離レーダーのイメージング検出機能を使用して周辺環境をスキャンすることで、歩行者や障害物などの存在を確認する。また長距離範囲では、ADAS機能を適用することで、ACC(車間距離制御)や、ブラインドスポット検出、衝突警報、後退時車両検知警報、AEB(自動緊急ブレーキ)機能などをサポートできる。

 最も基本的なレーダーの形態は、信号を送信して物体に反射させることにより、その存在と距離を明らかにするものだ。システムが特定の周波数で信号を送信し、戻ってきた信号の周波数を分析する。ADASでは、想定されるドップラー効果を含むこの2つの周波数の相違から位置や距離、物体の速度などを判断する。

 また、レーダーは、搭載されているエレクトロニクス製品をベースとして、周囲環境をスキャンすることができる。暗闇や悪天候でも動作可能な上に、比較的安価なことから、衝突回避などの用途向けセンサーの1つとして、非常に重要な役割を担っている。

 Podkamien氏は、「既存のレーダーが1つのチャンネルしか提供できないのに対し、4Dイメージングレーダーは、約500の仮想チャンネルを提供することが可能なため、非常に有望視されている。当社のシングルチップ4Dイメージングレーダーは、2023年に自動車に搭載される予定だ。車内見守りシステムや、幼児置き去り検知(Child Presence Detection)、シートベルトリマインダー、侵入警報など、さまざまなADAS用途において、ますます重要な役割を担うようになるだろう」と述べる。

 4Dイメージングレーダーは、カメラやLiDARとは異なり、霧や豪雨、夜間などのあらゆる状況下で動作が可能だ。検出距離が長いため、自動運転車の高度な要件にも対応することができる。また、ドップラー偏移を検出することにより、物体が自動車に向かって進んでいるのか、または自動車から遠ざかっているのかを、判断することができる。

 また、4Dイメージングレーダーは、反響定位やToF(Time of Flight)測定の原理を利用して周囲をスキャンするという点でも、カメラやLiDARと異なる。吹雪のような、イメージングが非常に難しい状況でも、300mの範囲内で優れた性能を発揮する。

 4Dセンサーは、時間変化を利用して3D環境を分析し、仰角を測定することにより、車道の静止物体を検出/認識するためのサポートを提供する。また、自動車周辺の沿道の状況を高精度で鮮明にスキャンすることから、ADAS向けに高速処理を必要とする大量のデータを、搭載されたエレクトロニクス機器で解釈することができる。Vayyar Imagingは、「その結果、優れた信頼性を実現することができる」と主張している。

 さらに、同社のレーダーオンチップ(RoC:Radar-on-Chip)は、リアルタイムの信号処理が可能なDSP/MCUを搭載するため、外付けCPUは不要だという。

NCAP準拠

 欧州のNCAP(European New Car Assessment Program)の新仕様では、歩行者検知機能の向上が求められる。Vayyar Imagingは、「当社のプラットフォームは、ユーロNCAP ADAS要件のうち9件に対応するため、歩行者や自転車、オートバイの運転者たちを保護することができる」と述べる。

 Podkamien氏は、「もはや、ありとあらゆる機能に対応可能なセンサーや、高価なLiDAR、カメラを搭載する必要はない。すべてのNCAP 2023/2025要件に準拠したチップが1つあれば十分だ」としている。

 さらなる自動化への移行が進むことにより、ドライバーは、自動車を直接制御する役割から完全に排除されるようになる。そのために、リアルタイムで自動車の周囲360度の視野を提供可能なセンサーシステムの開発が求められるようになるだろう。このような性能を実現するためには、半導体技術やRFシステム運用、信号処理などの持続的なイノベーションを実現する必要がある。Vayyar Imagingは、「当社はこれらの分野において、他に先駆けて4Dイメージングレーダーを開発した」と主張している。

【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】

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