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» 2021年08月11日 09時30分 公開

中温動作のSOFC向け新規電解質材料を1回で発見AIモデルでプロトン伝導性を予測

九州大学と岐阜大学、宮崎大学らの研究グループは、新たに開発したAI(人工知能)モデルを活用し、中温動作の固体酸化物形燃料電池(SOFC)に用いる「新規プロトン伝導性電解質」を、わずか1回の実験で発見した。

[馬本隆綱,EE Times Japan]

400℃以上の温度域で、実験値とAI予測値がほぼ一致

 九州大学と岐阜大学、宮崎大学らの研究グループは2021年8月、新たに開発したAI(人工知能)モデルを活用し、中温動作の固体酸化物形燃料電池(SOFC)に用いる「新規プロトン伝導性電解質」を、わずか1回の実験で発見したと発表した。

 SOFCは、固体酸化物を電解質として用いた燃料電池である。燃料電池の中では最も高いエネルギー変換効率を有するが、現行の固体酸化物は動作温度が700〜1000℃という高温でないと、高いイオン伝導性を示さないため、構成する材料が高価なものに限定されていたという。

 こうした中、中温動作のSOFC電解質材料として注目されているのが、約400℃で高いイオン伝導性を示すプロトン伝導性酸化物である。特に、ペロブスカイト酸化物(一般式はABO3)は、最も期待されている候補材料だという。ただ、これを構成する元素の組み合わせは、ほぼ無限に存在する。このため、新たなプロトン伝導性電解質の開発においては、これまで技術者の経験と勘に頼ってきたのが現状だ。

開発したAIモデルで未知材料「SrSn0.8Sc0.2O3-δ」のプロトン伝導性を予測 出典:九州大学他
材料を構成する元素の組み合わせは、ほぼ無限に存在 出典:九州大学他

 研究グループは今回、最適な元素の組み合わせを短期間で探索するためのAIモデルを開発した。具体的にはまず、22組成の既存材料を合成し、熱重量分析(TGA)で得られた高精度のプロトン濃度データと信頼できる文献値を用い、65組成・761データで構成された訓練データベースを構築した。

 次に、この訓練データを80の記述子とプロトン導入反応の物理化学的知見とともに学習させた。これによって、未知材料(CABO3)におけるプロトン濃度の温度依存性を予測するAIモデルを開発した。

 この時、物理化学的知見として「金属酸化物中におけるプロトン濃度はアクセプター濃度に比例する」ことをAIに学習させた。この結果、訓練データ数が761点と比較的少ない場合でも、材料中におけるプロトン濃度の温度依存性を精度よく予測できることが分かった。

実験データを活用したAIモデルと新規プロトン伝導性電解質の開発フロー 出典:九州大学他

 開発したAIモデルを用い、8613種類の材料についてプロトン濃度の温度依存性を予測した。その結果を化学組成空間や、記述子空間において構造−特性マップとして可視化。その上で、プロトン伝導性が発現する可能性の高い材料候補を12に絞った。この中から1つ、合成する材料を研究グループが選んだ。

 具体的には、AIが予測した材料の中から、「ΔHhydが−100±5kJ mol-1の水和エンタルピーを有し、かつ予測信頼性が高い領域に存在し、さらに従来プロトン伝導性が知られていない母結晶材料」という条件で絞り込んだ。この結果、「SrSn0.8Sc0.2O3-δ」が候補材料として浮かび上がったという。

候補材料の絞り込みに用いた構造−特性マップ 出典:九州大学他

 研究グループは、候補材料のSrSn0.8Sc0.2O3-δを実際に合成して、実験を行った。そして、発見した新規プロトン伝導性電解質のプロトン濃度は、400℃以上の温度域において、AIが予測した値とほぼ一致していることが分かった。

AIが予測したプロトン濃度の温度依存性と実験結果の比較および、プロトン伝導度の実験値 出典:九州大学他

 今回の成果は、九州大学エネルギー研究教育機構(Q-PIT)、稲盛フロンティア研究センターおよび、大学院工学府材料物性工学専攻の山崎仁丈教授と、九州大学稲盛フロンティア研究センターの兵頭潤次特任助教、九州大学大学院工学府材料物性工学専攻博士後期課程の辻川皓太氏、岐阜大学工学部および理化学研究所の志賀元紀准教授、宮崎大学工学教育研究部の奥山勇治教授らが共同で行った研究によるものである。

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