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» 2021年08月23日 11時30分 公開

“手作りのラズパイ教室”に見るプログラミング教育の縮図踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(14)STEM教育(2)(5/8 ページ)

[江端智一,EE Times Japan]

教室が運営できたのはお母さんたちが「エリート」だからでは?

 さあ、クライマックスです。多くの人が思ったとしても口にできなかった質問を、この私、江端がしてきました

 もう、上の図を一目見るだけで、悪意のある質問であることは明らかです。少なくとも、「頑張って運営を続けている人たちに対して語る言葉ではない」と、私ですら思えます。

 しかし、この問題から逃げては、パイ・テック・クラブと同じものを、我が国に作り出すことはできない―――、そう思い、思い切って伺ってきました。

 インタビューの内容は、ざっくり以下のような感じでした。



 『(私たちが)エリートかどうかはさておき、少なくとも、この地域(東京都杉並区)に、優位性があることは確かだと思います』(パイ・テック・クラブさん)

 ―― それはどういうことでしょうか?(江端)

 『例えば、私の出身地である、XX県は、パソコンを所持していない家が珍しくありません。つまり、パソコンは生活インフラとして認識されていないのです』

 ―― いや、それは不便でしょう。コロナのワクチン接種の行政サービスとかも、ほとんどスマホかパソコンがなければ、何もできないでしょうに……。子どものいる家庭なら、それは「虐待」と言えるレベルです

 『"エリート"ではなくて、ITリテラシーに対する意識のレベルが高く、それ故に、"プログラミング教育"というものに、"これ、今のうちに対応しておかなければヤバくない?"と反応できる保護者が、『ここ』に集りやすかったのだと思うのです』

 ―― とすれば、ITリテラシーが低い親の子どもや、ITリテラシーが低い地域で育った子どもは、いつまでも不利のままである、と

 『それは、そうだと思います。ただ、それは、国や地方自治体に負うところが大きいと思います。しかし、チャンスをつかめる子どもに、どんどんチャンスを与えていくことが、悪いこととは思えません。できる子どもは、引っ張りあげて上げるべきです』

 ―― その通りですね。「チャンスを与えないことによる平等」なんてナンセンスだと私も思います。とはいえ、パイ・テック・クラブのような、幸運な巡り合わせが、そんなに簡単に生まれるとは、私には思えないのです。これは、唯一にして、最後の教室になるのではないか、と心配しています

 『私たちは、そこまで悲観していません。今でも、コロナ禍の中にあって、このクラスを続ける方法について話あっています。例えば、リモート会議システムとかを援用すれば、クラスを続けることは可能であると考えていますし、このクラスの内容をパッケージ化することで、別の学校や地区に、展開することは十分に可能であると思っています』

 ―― 本当にそうでしょうか……? 私(江端)には、どうしても"そう"は思えないのですが……

と、私は、"そう思えない"理由をロジカルに説明できないまま、インタビューを終了させて頂きました。

見えてきたパイ・テック・クラブの“本当の意義”

 さて、以下は、パイ・テック・クラブさんから提供して頂いた、受講を終えた子どもの"親"に行ったアンケート結果です。

 パイ・テック・クラブさんの活動は、図らずも文部科学省の「プログラミング教育」の狙いと合致していることが、読みとれると思います。少なくとも、これらの子どもの人格形成は、本来「数学」や「科学」の教科が担う役割であるとは思うのですが、そちらよりは効果があるように見えます。

 ただ、パイ・テック・クラブの参加者は、"親"または"子ども"のどちらかが、自分の意思で参加をしてきた、という事実を忘れてはなりません。義務教育のプロセスで、『義務的に行われるプログラミング教育』で、同様の効果が得られるかは、今後の観察が必要になると思います。

 私が違和感を覚えたのは、こちらのアンケート結果です。こちらは保護者(もっぱらお母さんで、講師を行った方が含まれる)のアンケートです。

 少なくとも、このアンケートからは、アンケートに応じた保護者が、"Scratch"だの"Python"だの、"ネット接続"、"電子工学"、アップロード"などの言葉の意味を、完全に理解している ―― ということが分かります。そうでなれば、このアンケートには答えられないからです。

 その時、私は気がついたのです。

 ―― パイ・テック・クラブの本当の意義は、"子ども"ではなく、"親"のコンピュータ意識の改革じゃないのか?

と。

 つまり、"子ども向けのプログラミング教育"を装いながら、実際のところ、この活動の本質は"親のITリテラシー教育"だったんじゃないか、ということです。

 マニュアルを作り、文字入力の方法を教えて、子どもに配線やコードの扱い方を指導し、プログラムやロボットの動作を完成させるように指導する ―― ということは、当然のことながら、それらの全てについて理解していなければ、できません。

 そして、ラズパイ(×Windows, ×Mac, ×スマホ)を使って、それらを成し遂げたお母さんは、既に、そこらのパソコンでワードやエクセルが使えるだけのサラリーマンなんぞとは、「もはや、格が違う」。そして、このお母さんの子どもたちが、これからのIT社会に対して、どれだけ優位な立場にいるかは、もはや語るまでもないでしょう。

 私が感じてきた『―― 本当にそうでしょうか……? 私(江端)には、どうしても"そう"は思えないのですが……』の理由は、ここにありました。

 親子が一体となって、プログラミングに立ち向かう ―― これが、(恐らくはパイ・テック・クラブさん自身も気がついていない)、このクラブ活動の本質であると、私は看破しました。

 これは、リモートシステムで実現できるものでもありませんし、パッケージ化して全国展開できるものではありません。そして、これは、「子どもを水泳教室や英会話教室や学習塾に放りこんで、その後はほったらかしにする」という、従来の「子どもの習い事」に対するアンチテーゼです。

 "子ども"と"親"が、共に学ぶ生徒(学徒)である、という新しい学習形態を完成したことが、このパイ・テック・クラブの最大の成果である ―― 私はそう信じています。

 もし、パイ・テック・クラブさんに『江端さん、それは違いますよ』と言われても、そう信じることを、今、私は決めました。

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