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» 2021年08月23日 11時30分 公開

“手作りのラズパイ教室”に見るプログラミング教育の縮図踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(14)STEM教育(2)(6/8 ページ)

[江端智一,EE Times Japan]

STEM教育とは(江端定義)

 では、ここから後半に入ります。ここから、ようやくSTEM教育の話に入っていきたいと思います。

 STEM教育とは、「"Science, Technology, Engineering and Mathematics" すなわち科学・技術・工学・数学の教育分野を総称する略語」です ―― いや、本当にこれだけのことなのです。

 で、私、STEM教育というものが、どういう目的があり、どういうアプローチで、どのように現場に導入されているのか、かなり本気で調べました。

 まず書籍からアプローチしたのですが、『人類の未来を導く教育』などと記載されていた本は、そのページを見た瞬間、ゴミ箱に捨てました。

 その後は、Google Scholarを使って論文検索をしたのですが、"STEM"だの、"STEAM"だの、どーでもいい略語の定義やら概念の説明に終始しており、いつまでたっても、教育現場で展開されている話が出てこなくて、イライラしてきました。日本語で記載された論文を20本くらい真面目に読んだところで ―― ついに、私はキレました。

 もういい。私が自分で定義する ―― と腹をくくりました。

 一言で言えば、「科学・技術・工学・数学」をバラバラに単独として教えるだけではなく、それらを「組み合わせて使う方法」と、その方法を、座学(講義)だけでなく、「現実世界のケースに適用して学ばせる」実践的な教育 ―― という理解で良いと思います。

 ―― それって普通のことだろ?

と思いました。

 そんなことは、どの分野のエンジニアでも当たり前の話です。「科学・技術・工学・数学」のどれを欠いても、エンジニアは仕事ができません ―― 少なくとも、私はそう思ってこれまで仕事してきました。

 仕事のプロセスで足りないことがあれば、仕事の途中でも、勉強しなればなりません。そうしなければ、仕事を完遂することができないからです。

 ただ、一つ違うところがあるとすれば、「科学・技術・工学・数学」という必要な食材を、大鍋に入れて、ごった煮にするような取扱いを、当たり前のように行い始めたのは、職業エンジニア&研究員になったのことです。多分、この辺の話あたりです(「「サンマとサバ」をファジィ推論で見分けよ! 史上最大のミッションに挑む」)。

 逆に言えば、そのような「ごった煮」型の理系教育 ―― いわゆる"STEM教育"を、義務教育から大学教育のプロセスで学んだか、というと、確かに、私はそのような教育を受けた記憶はありません。もちろん、卒業論文等では、このようなアプローチが必要となってくるのですが、「ごった煮」の方法を知らないので、随分苦労した記憶があります。

 それと、昨年(2020年)あたり、ちょくちょく長女の卒業論文(幼児心理学)をのぞき見していたのですが、「惜しいなぁ……もっと優れた解析手法やシミュレーションのやり方があるんだけどな……」と思いながら、見ないフリを続けてきました ―― 論文締め切り前でテンパっている学生に、いらんアドバイスをしてはならないのです。

 つまりですね、文系、理系関係なく、「ごった煮」型の問題解決アプローチを体系的に学んでいれば、実に役に立つ、ということは、私にも分かるのです。それ故、特に社会科学の分野で、この「ごった煮」 ―― STEM教育のアプローチが入っていないことは、実に"惜しい"と思えるのです。

米国では60年も前から「STEM教育」が登場していた

 それはさておき、STEM教育なるものが、どこから登場したかというと、米国です。しかも、相当な昔から始まっていました。

 キーワードは、「恐怖」です。

 今、中国と米国は、世界の覇権争いをしている最中ですが、はっきりしていることは、世界の覇権を握ってきた国は、必ず没落してきました。ずっとトップを張っていられないのは、人間も国家も同じです。

 ただ、現時点でトップを張っている米国は、戦後、ソ連(今のロシア)との覇権争いの時に、きっちりと弱点分析をし続けてきて、その結果、「科学技術」が勝利条件であることを、60年以上も前から熟知していたのです。

 私、2年間だけでしたけど、米国に赴任していて、その時なんとなく理解したのですが(そんでもって、この前の大統領選挙で再度認識し直したのですが)、あの国の国民全てが『ラジオ英会話』に登場するような、インテリジェンスで理性的で高収入の職業についている人間ばかりではありません。

 場所によっては、「映画 八つ墓村」より閉鎖的なコミュニティーがあり、宗教的理由で進化論を否定する人は、まだ半数近く残っています。さらに、今のご時世で『(感染防止のために)マスクをする奴は、チキン(弱虫や臆病者)』などという、非科学的な考え方をしている人が一定数いる(国家最高のリーダーを含む)ことからも明らかです。

 そして、GAFAを生み出した、科学立国、IT帝国のように見える米国であっても、一般人の計算能力(四則演算)は、かなり低いように思えます。根拠は、"私の"スーパーマーケットのレジでのやりとりです。

 私が、6米ドル88セントのビール(税込)を購入するのに、7米ドル13セントを出すと、大抵の場合、レジの人から変な目で見られたものです。ええ、もちろん、25セント硬貨(クォーター)のお釣りをもらうことで、小銭を減らそうとするという、日本では普通の支払い方法です ――が、これが「できない」。もっとも、計算能力うんぬんではなく、単なる文化や習慣の違いかもしれませんが。

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