High NAのEUVが登場するのは、2024年頃といわれている。TSMCのテクノロジーノードでいえば2nm辺りである。その想定はimecも同じで、2nm+という世代にHigh NAのEUVを適用した場合、ウエハーコストがどうなるかを算出している(図9)。
この算出には、(1)High NAのEUVの装置価格がRegular NAのEUVの1.5倍であること、(2)スループットが変わらないこと、を仮定している。従って、Regular NAのEUVを180億円とした場合、High NAのEUVは270億円でなくてはならない(もしうわさ通り480億円もした場合は以下の計算は成立しない)。
仮定の下で話を進めると、ウエハープロセスにおいては、トランジスタを形成するFront End of Line(FEOL)、トランジスタと配線をつなぐビアなどのMiddle of Line(MOL)、多層配線を形成するBack End of Line(BEOL)の3工程がある。
2nm+のテクノロジーノードにおいて、High NAのEUVを使うかどうか、使うとしたらどれだけ使うか、について、3種類のケースでウエハーコストを比較している。
このように、非常に高価なHigh NAのEUVを使った場合でも、ウエハーコストを削減できる(ただし二つの仮定を満たさなければならないが)。特に、図9からは、FEOLのコストはほとんど変わらないが、MOLおよびBEOLのプロセスコストが大きく削減できることが分かる。従って、High NAのEUVが1台300億円以下になってくれれば、スケーリングも進めることができ上に、ウエハーコストも低減できる見通しが立つのである(ASMLに頑張ってもらうしかない)。
R&Dは年々困難になる上に途轍もないコストがかかるが、微細化が止まる気配は微塵もない。現在、微細化の先頭を走っているのはTSMCだが、8代目のCEOに就任したPat Gelsinger氏のもとでIntelが2nm辺りで追い付いてくる可能性が出てきた。Intelは最近、テクノロジーノードの呼び方を変更したので、その正式名称は「Intel 20A」になる(図10/『Intelがプロセスの名称を変更、「nm」から脱却へ』)。
加えて、朴槿恵前大統領への贈賄容疑で逮捕され、収監されていたSamsungの実質的なトップである李在鎔副会長が8月13日に仮釈放された(日経新聞8月14日)。海外出張ができないというような制約はあるが、経営の第一線に復帰する見込みである。そのため、これまで以上に大胆な設備投資やM&Aを仕掛けてくる可能性がある※注)。
*注)早速、Samsungは8月24日、今後3年間で240兆ウォン(約23兆円)を投資する計画を発表した。そして、240兆ウォンのうち、180兆ウォン(約17兆円)が韓国内で投じられ、4万人の雇用を創出するとしている(CNET Japan)。ただし、半導体への投資額はこの記事には書かれていない。
となると、今後は、トップに立つTSMCを中心に、SamsungとIntelが加わって、三つ巴の微細化競争が激化していくのかもしれない。
それにしても、受託生産のファウンドリーであるTSMCが、なぜこれほど狂気的な微細化を続けているのであろうか?
筆者は、拙著記事『半導体不足は「ジャストインタイム」が生んだ弊害、TSMCが急所を握る自動運転車』の中で、TSMCの微細化について、以下を記載した。
「10年位前の微細化は、欧州のアウトバーンを時速200kmでぶっ飛ばしているような感じだった。その後、微細化がスローダウンしてきたのは事実だが、それでもTSMCは田んぼのあぜ道を時速100kmでぶっ飛ばしていて、そのあぜ道の幅が年々狭くなってきており、ちょっと運転を間違えると田んぼに転落してしまうほど危うい。しかし、依然として時速100kmでぶっ飛ばし続けている」
なぜ、ファウンドリーのTSMCが田んぼのあぜ道を時速100Kmでぶっ飛ばさなくてはならないのか? 実は、ファウンドリーのTSMCには、ロードマップがないと思っている(意思がないと言ってもよいかもしれない)。TSMCは、あくまで受託生産のファウンドリーであるから、TSMCに委託するファブレスの言う通りに製造しているだけである。
では、TSMCに「田んぼのあぜ道を時速100kmでぶっ飛ばさせている」のは誰かというと、それは、米Appleである。TSMCは、「一見不可能とも思えるような微細化」をAppleから要求されて、必死になってそれに応えているわけである。
それはなぜか?
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