東京工業大学は、高度なAI処理をスマートフォンなどで実行できる「プロセッサアーキテクチャ」を開発した。試作したチップの実効効率は最大26.5TOPS/Wで、世界トップレベルだという。
東京工業大学科学技術創成研究院の本村真人教授と安藤洸太特任助教は2021年8月、高度なAI処理をスマートフォンなどで実行できる「プロセッサアーキテクチャ」を開発したと発表した。試作したチップの実効効率は最大26.5TOPS/Wで、世界トップレベルを達成した。
本村教授らは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が進める開発プロジェクト「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発」において、高効率の畳み込みニューラルネットワーク(CNN)推論処理をエッジ機器で実行できるプロセッサアーキテクチャの開発に取り組んでいる。
CNN推論処理をスマートフォンやロボットなどのエッジ機器で利用する方法として、CNNの枝刈り(プルーニング)などがこれまで提案されてきた。この方法だと、計算量とメモリ容量を削減することはできるが、メモリへのアクセスが不規則になり、並列処理の計算効率が低下するという課題があった。
これに対し本村教授らは、チャネル間畳み込みと入力データのチャネル内平面シフトを利用して畳み込みの積和演算を行うことが効率的であることを明らかにし、並列演算アレイとデータ整形機構を中核としたアーキテクチャを開発した。
本村教授らはまず、CNNの並列演算における効率改善に取り組んだ。CNNは「畳み込み層」や「プーリング層」「全結合層」などで構成されている。畳み込み層における畳み込み演算は、入力活性とカーネル群から複数チャネルの出力データを生成する積和演算の繰り返しからなる。依存関係がない入力チャネル内のピクセル位置と出力チャネル方向の座標軸を選択すると、積和演算をそれぞれの行と列で、独立の積(直積)と和の計算に分離できる。これによって、データ再利用性を高く保つ並列計算が可能になり、計算効率が高くなる。特に、カーネルサイズ1×1のチャネル間畳み込みで、その効果が大きくなるという。
次に検討したのが計算効率のアルゴリズム改善である。あらゆる畳み込み演算が、入力データのチャネル内平面シフトとカーネルサイズ1×1のチャネル間畳み込みの組み合わせに分解できることに着目。特に、チャネル内とチャネル間にカーネルを分離して軽量化した畳み込み演算では、入力データのチャネル内平面シフトを扱う整形機構によって、高いデータ再利用率で処理できることが分かった。しかも、畳み込みカーネルをカーネル要素の座標に合わせて枝刈りをすることで、計算効率のさらなる向上が可能になったという。
さらに既存のCNNモデルを変形し、同一座標のカーネル要素を優先して枝刈りをする学習アルゴリズムを構築した。開発したアルゴリズムは、既存の学習済みモデルに対し連続的にカーネル要素数を減らしながら再学習を行う。求める処理時間や効率と認識精度によって、スパース率のトレードオフ点を任意に選択することが可能だという。
本村教授らは、開発したアーキテクチャに基づく試作チップを、TSMCの40nmプロセスで製造し、その特性を評価した。並列演算アレイサイズは32×32で、活性値・係数値には4ビット固定小数点(INT4)量子化を採用した。このチップは、最大534MHz、1.1Vの動作環境で、電力消費は400mW以内となった。カーネル要素数を9分の1まで枝刈りをした後のスパース化した不要カーネル要素の省略を考慮すれば、実効効率は26.5TOPS/Wに相当するという。これは、エッジ機器向けCNN推論プロセッサとして、世界トップレベルの数値になる。
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