東京工業大学は、無線電力伝送で生成される電力で動作させることができる、「ミリ波帯5G中継無線機」を開発した。電源が不要となるため基地局の設置も容易となり、ミリ波帯5Gのサービスエリア拡大につながるとみられている。
東京工業大学工学院電気電子系の白根篤史助教と岡田健一教授は2021年6月、無線電力伝送で生成される電力で動作させることができる、「ミリ波帯5G中継無線機」を開発したと発表した。電源が不要となるため基地局の設置も比較的容易となり、ミリ波帯5Gのサービスエリア拡大につながるとみられている。
開発したミリ波帯5G中継無線機は、28GHz帯の5G無線通信と同時に、ISMバンドの24GHz帯を使って無線電力伝送を行い、無線通信に必要な電力を供給することができる。具体的な動作はこうだ。壁などに設置したミリ波帯5G中継無線機が無線通信信号を受信すると、いったん4GHzの中間周波数に変換し、損失を抑えながら遮る物を通過させる。通過した信号は再び28GHz帯に周波数変換した上で、複数のアンテナで構成するフェーズドアレイにより、ビームフォーミングを行って無線通信を中継する。この時に、必要となる電力は無線電力伝送を利用して供給する。
無線電力伝送で生成されるわずかな電力でミリ波帯5Gのビームフォーミングが行えるよう、「ベクトル加算型バックスキャッタリング」技術を新たに考案した。一般的なアクティブフェーズドアレイは、アンテナ1素子当たり数十〜数百mWの電力を消費するという。開発したベクトル加算型バックスキャッタリング技術を用いると、1素子当たり30μWという小さい消費電力でビームフォーミングを行うことができる。
バックスキャッタリング技術は、消費電力の小さい無線通信方式として、これまでも利用されてきた。ただ、従来方式は入力された電波を希望する周波数帯へ変換しながら反射するだけで、指向性を持たせたビームフォーミングはできなかったという。
新たに考案したベクトル加算型バックスキャッタリング技術では、位相が90°異なる2つの信号を用いて、0°と90°の位相成分を持つ2つの反射波を作り出す。その上で反射波の強度を調整し加算することで、任意の位相を持つ28GHz帯の信号を生成することに成功。各アンテナ素子から、位相シフトした反射波を放射することで、ミリ波帯5G信号のビームフォーミングを可能にした。
研究チームは、4個の無線ICを搭載し32素子のアンテナフェーズアレイを持つ無線機を試作した。1個の無線ICには8系統の無線トランシーバーを集積し、シリコンCMOSプロセスで製造した。この無線機を用いて、ビーム方向の変更が可能であることを確認し、ベクトル加算型バックスキャッタリング技術の有効性を実証した。
さらに、5G準拠の変調信号を用いてOTAの無線通信測定評価を行い、受信/送信ともに5G NR MCS19を用いた64QAMの無線通信に成功した。試作した無線機は、無線トランシーバー1系統当たり30μWの消費電力で動作。同時に無線電力伝送を利用し、無線機全体で3.1mWの電力を生成できたという。
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