立命館大学とDegas、エイブリック、浅井農園は2021年10月13日、樹液発電を用いたワイヤレス植物モニタリングセンサーシステムの実証実験を行うと発表した。無電源農地が多いガーナなどの貧困農業国において持続可能な農業を実現することを目指しており、実証実験は、同国の季候に近い沖縄県宮古島市で行う。
立命館大学とDegas、エイブリック、浅井農園は2021年10月13日、樹液発電を用いたワイヤレス植物モニタリングセンサーシステムの実証実験を行うと発表した。無電源農地が多いガーナなどの貧困農業国において持続可能な農業を実現することを目指しており、実証実験は、同国の季候に近い沖縄県宮古島市で行う。
「樹液発電を用いたワイヤレス植物モニタリングセンサーシステム」は、立命館大学理工学部教授の道関隆国氏が2012年に考案したものだ。デバイスは、無線機(BLE)と間欠電源変換回路、蓄電用のコンデンサーを搭載したセンサーボードに電極として正極にステンレス棒、負極に亜鉛メッキした電極針をつないだものを用いる。
原理としては、植物の導管を通る水分を電解液として、導管に差した電極針の亜鉛が反応して発生する微少な電力(無負荷時の出力電圧0.9Vで発電電流は数マイクロアンペア程度という)をコンデンサーに蓄電。コンデンサーの電圧が一定の値になると、間欠電源変換回路を通してBLE無線機を駆動し、ゲートウェイに信号を送信する。
ここで、土壌の水分量が少なかったり、植物自体が弱って樹液を吸い上げられなかったりした場合、導管を通る樹液量が低下し、発電量も低下、この信号送信の間隔が長くなることから、信号の受信間隔をモニタリングすることで植物の健康状態を継続的に観察することが可能になるという。
下図は、トマトを用いて行った植物モニタリングセンサーの評価例だ。上から気温と湿度、日射量とCO2濃度、飽差と土壌水分量のデータが並んでおり、一番下のグラフが植物モニタリングセンサーの無線信号間隔となっている。グラフ内の白色の部分が昼間で、灰色が夜間を表しており、昼は光合成によって根から樹液を多く吸うので無線間隔が短くなるが、夜間は間隔が長くなる、といったリズムを示していることが分かる。道関氏は、「現在、この無線間隔と気温や湿度、日射量、土壌水分などとの相関性を調べている」と述べた。
なお、こうして無線機の無線間隔で環境発電素子の発電量をセンシングできる「センシング機能付き間欠電源変換回路技術」は、立命館大学と共同開発を行ったエイブリックが既に「CLEAN-Boost技術」として実用化している。
今回の実証実験はこのシステムを、無電源農地が多いガーナの南国果樹に適用することを目的としており、ガーナの気候に近い沖縄県宮古島市をフィールドに、無電源でもカカオやバニラなどの植物の状態をモニタリングできるシステムを構築し、その有用性を検証する。
無電源地区での植物モニタリングセンサーシステムは、植物モニタリングセンサーデバイスからの信号と太陽電池駆動タイプの環境センサー(画像や温度、湿度など)からの信号を、太陽電池&蓄電型の受信機に蓄積。1日1度、管理者がスマートフォンでデータを吸い上げ、電源のあるクラウド環境でデータをアップする、という構成となる。
既に実証実験は開始しており、下図右のように灌水時に信号の受信頻度が上がっていることなどを確認している。説明担当者は、「今後、肥料をあげた際の植物内部の樹液流の変化や、灌水および外部の環境変化から、灌水や肥料を挙げるタイミングのアラートを割り出していき、対象の植物も広げ、効率的な農業センシングに向けて研究開発を進めていきたい」と語った。
なお、実証実験において、立命館大学はプロジェクト管理やセンサーの試作、センシングデータ解析を、エイブリックは、センサー用モジュールの提供やセンサー用受信システムの技術共有を担当する。ガーナを拠点に農業資材融資/営農指導/デジタル化による事業創出を通じた小規模農家の所得向上事業を行うDegasは、システムの製品化に向けた動きや収集したデータの蓄積/評価を実施。浅井農園は、実証実験用の農場提供および果樹の生育/観察を行う。
【訂正】初出時、一部に誤字がありました。お詫びして、訂正致します。(2021年10月14日午後7時25分/編集部)
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