金沢大学と埼玉大学の共同研究グループは、リザバー計算を高速かつ低消費電力で実行できる、新たな「光回路チップ」を作製した。演算速度は現行の光リザバー回路チップの60倍以上、省エネ性は電子回路に比べ100倍以上にできる可能性があるという。
金沢大学理工研究域機械工学系の砂田哲教授と埼玉大学大学院理工学研究科数理電子情報部門の内田淳史教授による共同研究グループは2021年11月、リザバー計算を高速かつ低消費電力で実行できる、新たな「光回路チップ」を作製したと発表した。演算速度は現行の光リザバー回路チップの60倍以上、省エネ性は電子回路に比べ100倍以上にできる可能性があるという。
リザバー計算は、小脳を模倣したニューラルネットワークの1種。大脳を模したニューラルネットワークに比べ、大量のデータがなくても、比較的簡単に学習できるという特長がある。特に、音声や株価のように変動する時系列データの処理に向いているという。
こうした処理を高速に行うため、近年はさまざまな光ニューラルネット回路が提案されている。ただ、これまでは1次元的な光配線(シングルモード導波路)で構成する回路がほとんどであり、シリコンチップ上に大規模なニューラルネット回路を構成するのは難しかったという。
共同研究グループは今回、光の波動性による高い空間的自由度に注目した新しい光ニューラルネット回路を提案した。マルチモード導波路の中で生じる光学現象「スペックル現象」を、空間的に連続で無限の自由度があるニューラルネットと見なすことができるためである。
新たに作製した光回路は、光ニューロン場の生成に必要な要素をシリコンチップ上に集積している。スパイラル型の結合マルチモード導波構造によって、微小なチップ内にランダム結合した光ニューロン対応のネットワークを、高密度かつ大規模に実装することができる。これを情報のリザバーとして利用することにより、高速かつ低遅延、低消費電力でリザバー計算を実行できるようになった。
実験では、カオス的な複雑信号の1ステップ先を予測した。毎秒12.5Gサンプルの速度で光位相を変調し、計算回路チップに入力。光リザバー計算回路チップで生成した光ニューロン場の応答から、1ステップ先を予測するように学習した。
実験の結果から、最新の光回路と比較して、60倍以上の計算処理能力があることが分かった。光波長分割多重方式を適用すれば、さらなる高速化も可能とみている。しかも、ニューラルネット演算に必要なエネルギーは入射光パワーだけで済み、エネルギー消費量は1回の積和演算あたり0.15フェムトジュール(0.15×10-15J)と試算されるなど、既存の回路に比べ極めて小さいことが分かった。
共同研究グループによれば、将来は光チップ上で100万を超える光ニューロンに対応する光リザバー計算を用い、実用的で高度なタスクに対しても一瞬で認知、判断することができるようになる、という。
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