米国の市場調査会社Tirias Researchで主席アナリストを務めるJim McGregor氏は、「今回私が驚いたのは、FTCが現在まだ、懸案中のNVIDIA/Arm買収に関する再調査を進めているさなかだという、そのタイミングだ。FTCは手続き上、再調査が完了するまで訴訟を進めることができないのではないか」と述べている。
またMcGregor氏は、NVIDIAが買収完了に向けた取り組みを強化しているという点に関しては、「NVIDIAのCEOであるJensen Huang氏の中には、引き下がるという考えはない。同氏の確固たる信念により、今のNVIDIAがあると言える」と述べている。
もちろんHuang氏は、その勇ましさが仇となって問題を引き起こしてきたのかもしれない。米国の市場調査会社The Linley Groupのシニアアナリストを務めるMike Demler氏は、「Jensen氏は当初、買収はスムーズに進むはずだと宣言していたが、それは何の役にも立たなかったようだ。そして、さらなる詳細な調査を招く結果となった。Mellanox Technologiesの買収を単に補完するためのものと見なされるだろうという考えは、甘かったといえる」と述べる。
NVIDIAは2020年9月に、ソフトバンクからArmを買収すると発表した。この時提示していた買収金額は400億米ドルだったが、その後の株価変動により、現在では約540億米ドルに上昇したとみられる。いずれにしろ、半導体業界で史上最大規模の買収になるのは間違いない。
買収の知らせを受け、Armライセンシーの間では瞬く間に、NVIDIAがArm事業に対して強力な主導権を握るのではないかという恐怖が広がった。FTCが主張しているように、「NVIDIAは、競合他社にとって重要な技術をないがしろにしたり、技術へのアクセスを遮断することによって、イノベーションを阻害する恐れがある。また、競合情報がArmからNVIDIAに流れてしまうのではないだろうか」という懸念が生じたのだ。
合併買収に対して不信感を抱いた企業が、このような全般的な不安を規制当局に対して表明した。そしてFTCが、こうした意見を具体的な懸念事項として絞り込み、訴状に列挙したのだ。FTCは、「NVIDIAのArm買収は、NVIDIAがArmベースの製品を使用して競争を繰り広げている3つの世界市場において、競争を阻害することになる」と主張する。その内容は、以下の通り。
こうした懸念があるにもかかわらず、一部のArmライセンシー(NVIDIAの競合メーカーも含む)からは、合併を支持する声も上がっている。
しかし、もし買収が失敗に終わった場合、Armの選択肢は限られるのではないだろうか。さらに、Armライセンシー(NVIDIAのライバルも含め)が危険にさらされる可能性もある。
Armは恐らく別の買い手を見つけることができるかもしれないが、McGregor氏は懐疑的だ。ソフトバンクがArmの売却を開始した際、手を挙げたのはNVIDIAだけだった。それ以降、「Armがより中立的な立場を保つための競争入札は誰も行っていない」とMcGregor氏は指摘する。
次の策は、恐らくIPO(新規公開株式)であり、NVIDIAが買収に名乗りを上げる前からソフトバンクとArmはその可能性を探っていた。
McGregor氏は、「半導体技術のIPをライセンスするビジネスモデルで成功したArmでも、Intelなどプロセッサのライバルと比較すると比較的小さな規模にしか成長できなかった。そのため、現実的には研究開発投資が追い付かない状況にある。NVIDIAのように研究開発に資金を投入できる大企業のリソースがなければ、Armといえども技術的に後れを取る可能性もあるのだ。
「NVIDIAは、投資してArmのビジネス構造を維持することを皆に保証しようとしている」とMcGregor氏は述べる。
では競合各社はNVIDIAを信頼できるのだろうか? できるかもしれないし、難しいかもしれない。McGregor氏は、NVIDIAが、競争の激しい業界/ビジネスにおける、競争の激しい企業であることを指摘する。一方で「NVIDIAにとって、Armのビジネスモデルを台無しにするのは愚かなことだ」とも述べている。
The Linley GroupのDemler氏は、「もし買収が成立しなかった場合、NVIDIAは破談条項によりソフトバンクに12.5億米ドルの債務を負うともいわれている」と述べた。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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