ベルギーの研究機関であるimecの研究チームは、GaN(窒化ガリウム)パワーICを次のレベルに引き上げ、スマートパワープラットフォーム上にショットキーバリアダイオード(SBD)とHEMT(高電子移動度トランジスタ)を統合したと発表した。
ベルギーの研究機関であるimecの研究チームは、GaN(窒化ガリウム)パワーICを次のレベルに引き上げ、スマートパワープラットフォーム上にショットキーバリアダイオード(SBD)とHEMT(高電子移動度トランジスタ)を統合したと発表した。
imecは2021年12月11〜15日に開催された「2021 IEEE International Electron Devices Meeting(IEDM)」で、この新しい技術を発表した。同技術は、pチャネルGaNのHEMTベースの200V SOI(Silion on Insulator)パワーIC上で、高性能ショットキーバリアダイオードと空乏モード(Dモード)HEMTを組み合わせている。同プラットフォームは200mmウエハー上で開発したという。
この組み合わせによって、機能性と性能が向上したチップの設計が可能になる。imecは、「この統合は、より小型で高効率なDC-DCコンバーターやPOL(Point of Load)コンバーターの道を開くものとなる」と述べている。
imecでGaN技術のプログラムディレクターを務めるStefaan Decoutere氏はインタビューで、「DモードHEMTは、RTL(抵抗/トランジスタロジック)の反転機能をDCFL(直結FETロジック)に置き換えることで、ロジックおよびアナログ機能を向上させ、反転ゲートのプルアップ特性を改善している」と説明している。
Decoutere氏は、「GaNには優れたpチャネルデバイスがなく、正孔の移動度は電子の約60分の1であるため、CMOSのような相補型ロジックは現実的ではない。低電圧ショットキーダイオードは、レベルシフトやクランピングなどの機能をオンチップで提供する。高電圧パワーショットキーダイオードを使用すると、ローサイドスイッチの第3象限動作を改善し、電力効率を高めることができる」と付け加えた。
次のステップは、GaN ICのプロトタイプの開発と、より安価な200mmウエハーへのプロセス移管である。Decoutere氏は「以前は、GaN-on-Siはより直径の小さいウエハー(4インチと6インチ)で処理されていたが、GaN技術を200mmに移管する製造工場が増えている」と述べている。
より大口径のGaN-on-Si基板の課題は、GaN/AlGaN層とその下の基板の熱膨張係数の不一致を考慮すると、基板の機械的安定性である。Decoutere氏は、「超格子バッファの使用など、バッファの適切な設計とMOCVD(有機金属化学気相成長法)装置の改良によって、この機械的安定性の問題に対処することで、200mmウエハーでのGaNの処理を実現した」と説明した。
GaN HEMTは、パワーエレクトロニクスで使用される高周波パワーアンプや高電圧デバイスなど、さまざまな用途で注目を集めている。コストを削減しSiベースのコンポーネントとの統合を加速するために、現在は、Siベースの基板を使用したGaN HEMTの開発が重点的に行われている。ただし、GaNとSi間の格子不整合と熱的な不整合が原因で、GaN-Siインタフェースには頻繁に欠陥が発生するという課題がある。
GaN HEMTには、オン抵抗と性能指数(FOM)の望ましい数値がある。電圧ならびに電流定格に応じて、FOMはスーパージャンクションFETの4分の1から10分の1になり得る。その結果、GaNは高周波のアプリケーションに非常に適している。低オン抵抗のGaN HEMTを採用することで、導通損失が減少し、効率は高まる。
GaN HEMTには固有のボディダイオードがないため、逆回復電荷もない。デバイスはゲート電圧によってさまざまな特性を示し、逆導通が可能である。
GaNでは、より高速なターンオン/ターンオフ時間(つまり、より高速なdV/dt)と、より低く、厳重に管理されたゲートターンオフ電圧が求められる。そのため、GaNデバイスを動作させることは、MOSFETを動作させるよりも難しい。ゲートループインダクタンス、電源インダクタンス、ゲートレジスタ、ドレイン・ソースインダクタンスを最適化することが、ボードレベルでGaNを動作させる上での主要な課題となっている。設計者は、デッドタイム制御、dV/dt耐性、負電源電圧、ゲートドライバーレベルでの過充電に集中しなくてはならない。ゲートドライバーのハイサイドおよびローサイドの対称性も重要な要素だ。それにより、1ナノ秒未満の遅延マッチングが実現され、デッドタイムを低減できるからだ。
GaNパワーエレクトロニクスの大半は、外部ドライバーICが必要なディスクリート部品である。だが、GaNの高速なスイッチングを最大限に活用するには、ドライバー機能をモノリシックデバイスに統合することが鍵になる。
imecは、Eモード(エンハンスメントモード)とDモードのHEMTデバイスを組み合わせることで性能を向上したとする。Decoutere氏によると、統合されたDモードHEMTを用いて、SOI上のEモードHEMTの機能的なプラットフォームを拡張することで、スピードを向上させながら電力損失を減少することができるという。
もう一つ、GaNパワーデバイスに統合するための重要な部品として、ショットキーバリアダイオードが挙げられる。ショットキーGaNダイオードは、シリコンよりも高い逆電圧と低いスイッチング損失を備えている。imecによると、GaN ICプラットフォームは、マルチプロジェクトウエハーサービスを通してプロトタイピングが可能で、パートナー企業各社も利用できるようになっている。
まずは、スマートフォンやタブレット、ノートPC向けの急速充電器の他、高電圧の電力スイッチングや変換アプリケーションに向けた、耐圧650V品を開発する計画だ。
【翻訳:青山麻由子、滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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