それでも、TSMCだけでなく、そのライバル企業であるSamsungやIntelなどのファウンドリーも急激に生産能力を拡大していることについて、「やがて、広範囲に及ぶ過剰生産能力や利益の急落を引き起こすのではないか」と懸念する声もある。
Goldman SachsのアナリストであるBruce Lu氏は、カンファレンスコールの中で、「金融業界の大半が、2022年には一種のサイクルピークや過剰供給に達するのではないかと議論しているところだ」と述べている。
「たとえ現在、下降傾向にあるとしても、TSMCにとってはそれほど危機的な状況ではないだろう」(Wei氏)
TSMCは、潜在的な減退傾向に対する防衛策として、AppleやXilinxをはじめ、半導体供給を確保したいと考えるさまざまな顧客に対し、前払いを要求しているという。TSMCの一部の顧客企業は、供給不足の期間中に重複発注を行っていた。このために数字がかさ上げされ、現実に即していない楽観的な見方が広まったのだ。
TSMCは2021年に、前払いで67億米ドルを受領しており、2022年はその金額がさらに増加する見込みだという。
BernsteinのアナリストであるLi氏は、かつてTSMCのエンジニアだった経験を持つ立場から、レポートの中で、「前払いは魅力的だが、ファウンドリーモデルの理念を損なうことになる。TSMCの前払い金額は、同社の年間売上高全体の10%を下回っている。前払いは、“皆のためのファウンドリー”という理念から外れるだけでなく、ファウンドリーモデルの多様性、効率優位性などをリスクにさらすことにもなる」と述べている。
TSMCは、2022年の設備投資費の増額分を、日本と米国に新設する半導体工場に一部割り当てる予定だとしている。ただし、2022年の400億米ドル超の予算のうち、具体的にどれくらいの金額をこれらのプロジェクトに割り当てるのかは明かしていない。
ソニーとの合弁事業である日本工場は、例外となるようだ。TSMCは現在も、欧州工場を建設する可能性について検討しているところだという。
TSMCのチェアマンを務めるMark Liu氏は、「われわれは、長い間合弁事業を行ってこなかったため、今回の合弁事業は特別なケースだと考えている。TSMCの工場は全て、どこに拠点を置いているかに関係なく、常に世界中の顧客企業に対応することができる。それは、今回の日本の合弁事業でも同じだ」と述べる。
同氏は、ソニーの技術については詳細を明かさなかった。
カンファレンスコールでは、アナリストたちが減速傾向に対する懸念について議論を繰り返した。TSMCとSamsungは、自らのために最先端技術の分野でニッチ市場を切り開いていることから、それが半導体減速に対するレジリエンスを提供してくれることになるだろう。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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