森氏は、SiCやGaNの製品や技術開発の状況についても詳細を語った。
東芝は、これまで主に国内の鉄道インバーター向けに耐圧3.3kVのSiC MOSFETとショットキーバリアダイオードを搭載したモジュール製品を量産化している。
鉄道向けは高電圧/高電流仕様となるため、SiCで問題となる結晶欠陥の影響を受けやすく、安定した製品を生産するには欠陥を低いレベルに制御する技術が求められる。また、デバイス構造の工夫や信頼性を確保するためのテスト技術と高度な技術も必要となる。同社は、デバイスを作り込むSiCエピタキシャルウエハーについて、昭和電工から低欠陥品の供給を受けており、2021年9月には同社と長期供給契約を締結している。
東芝は、こうして鉄道向けで培った技術をベースに、2021年11月、電源などの産業用途向けに耐圧650Vと1.2kVのSiC MOSFETのサンプル出荷を開始している。
SiCデバイスでは、今後、車載向けではゲート構造をウエハーの中に埋め込んだ新構造で性能向上を実現する製品の開発を行うほか、送配電や再エネに向けた高電圧用途にはシリコンMOSFETで採用しているスーパージャンクション構造導入によって、低損失化を図っていくとしている。これらの構造は、デバイスの製造工程中に「インプロセスエピ」と呼ぶエピタキシャル成長工程が必要となり、装置およびプロセス開発でニューフレアテクノロジーとの共同開発を行っていく。
GaNでは第1世代として、GaNとシリコンのパワーMOSFETを組み合わせた製品の提供を2023年に開始する予定だ。同製品はシリコンデバイスと比べ、損失を半減するという。
さらに、高速スイッチングをGaN単体で実現し、シリコンと比較し電源部の体積を約6割削減できる第2世代品も開発中といい、「現在、コーポレートラボで開発中の新デバイス構造を、デバイスCo.に部隊を集結増強させ開発を加速させる。国内外の電源メーカーとも連携して開発していく」としている。
ストレージ事業では、データセンター/クラウドサービスプロバイダー向けで需要が拡大し、2021〜2030年までCAGR22%の成長が見込まれるニアラインHDD市場に注力する方針。同社は大容量化、顧客リレーションの拡充、生産能力の拡大を進め、2021年度第4四半期時点で17%程度の市場シェアを、2025年度までに24%以上に拡大させる。
同社は、多層磁気ディスクやFC-MAMR(磁束制御型マイクロ波アシスト記録)など大容量化技術を業界に先駆けて開発し続けてきた。2021年12月には、次世代磁気記録技術「MAS-MAMR(共鳴型マイクロ波アシスト記録)」も発表。同技術では2023年度に30T(テラ)バイト機を完成させる予定で、今後はさらに35Tバイト以上の記録容量を目指すほか、並行して熱アシストによって記録密度向上を図る「HAMR技術」の開発も進めていく。
HDD事業全体としては、売上高を2021年度見込みの4100億円から2025年度には5100億円に成長させる方針で、佐藤氏は、「既にSSDに置き換えが進んでいるモバイルHDDなどの市場縮小を見込んだ上でも、ニアラインHDDの拡大によって実現できる」と自信を見せていた。
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