大阪大学は、サイバーフィジカルシステム(CPS)において、複雑なタスクを実行するための制御機能を、低コストで学習する人工知能(AI)技術を開発した。自動運転車やドローン、自律型移動ロボットなどへの応用が期待される。
大阪大学大学院工学研究科の橋本航大学院生(博士後期課程)と橋本和宗助教、高井重昌教授らの研究グループは2022年3月、サイバーフィジカルシステム(CPS)において、複雑なタスクを実行するための制御機能を、低コストで学習する人工知能(AI)技術を開発したと発表した。自動運転車やドローン、自律型移動ロボットなどへの応用が期待される。
自動運転車などでは、「前方の車に追従する」など、与えられたタスクを基に、自動車が安全に走行できるよう、リアルタイムに制御する機能が必要となる。「コントローラ」と呼ばれるこの機能を、AIで学習するための研究も行われている。ところが、自動運転などにおけるタスク数は膨大となり、消費するメモリ容量も増加する。このため、これまでの手法を実用化するにはコスト面が課題になっていた。
研究グループは、自動車やドローン、ロボットなどのシステムをコンピュータで管理し制御するためのコントローラについて、統一的かつ省メモリで学習可能な手法を提案してきた。それは、複雑なタスク仕様を信号時相論理(STL:Signal Temporal Logic)で記述し、これらをベクトルに変換する技術(STL2vec)である。STLを用いることで、CPSにおける幅広いタスクを形式的に記述することが可能になるという。
特に今回は、STLで記述されるタスクを実行するためのコントローラについて、ニューラルネットワーク(学習モデル)を用いて学習させることとした。具体的には、STLタスクをベクトルに変換するための「STL2vec」と呼ぶニューラルネットワークを構築。そして、変換されたベクトルをセンサーから得た情報とともに、ニューラルネットワークに入力することで制御入力を生成する、という手法である。
従来だとタスクの数だけ学習モデルを用意する必要があった。これに対し提案した手法を用いれば、STL2vecとコントローラ用のニューラルネットワークのみを学習すれば済むことになる。
STL2vecで出力される制御仕様のベクトル表現は、タスク同士の類似度を捉えるように学習される。このため、単純に各タスクに任意の整数等を割り当てて、コントローラへの入力として用いる場合に比べ、学習効率を改善できる見通しだ。
自律型移動ロボットの制御を想定した実験では、約200種類のSTLタスクを一度に学習するシミュレーションを行い、メモリ消費量を従来の24分の1に削減できた。この結果、複数タスクに対応できるコントローラの学習を、低コストで実現することが可能となる。
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