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800V対応SiCインバーター、McLarenが2024年に商用化急速充電とEVの低コスト化に向け

英国のMcLaren Applied(以下、McLaren)は、急速充電と高効率、長距離走行を実現する800V対応のSiC(炭化ケイ素)インバーター「Inverter Platform Generation 5(IPG5)」の本格的な生産に向けて準備を進めている。

» 2022年03月15日 15時30分 公開

 英国のMcLaren Applied(以下、McLaren)は、急速充電と高効率、長距離走行を実現する800V対応のSiC(炭化ケイ素)インバーター「Inverter Platform Generation 5(IPG5)」の本格的な生産に向けて準備を進めている。インバーターは、高性能であると同時に繊細なコンポーネントで、数百キロワットの電力を管理する一方で、ドライバー(運転者)の要望に応じて微細な変調を行う。こうした機能を想定すると、インバーターの故障が電気自動車に多くの問題を引き起こす可能性があることは明らかだ。

 同社はF1(Formula 1)カー向けのインバーター技術を開発し、商用電気自動車向けに同技術の最適化を進めている。現在、IPG5をサンプリング出荷しているが、商業生産に対応できるのは2024年以降になる見通しだという。

Stephen Lambert氏

 McLarenの電化担当責任者であるStephen Lambert氏は、「800Vは超高速充電への扉を開き、電気自動車向けの事実上の標準バス電圧になる可能性が高い」と述べている。

 McLarenは、自動車や商用車、航空宇宙、海洋産業における高効率な電動化をサポートしている。電気自動車が従来の内燃エンジンと競うには、充電の高速化が必要となるため、EV充電システムでは、充電時間を20分未満に短縮するために最大350kW出力のパワーソリューションへの移行が急速に進んでいる。こうした動向に伴って、設計者は電圧と電流レベルに関して、新たな工学的課題に直面している。

 McLarenによると、IPG5によって、自動車メーカーはコストと持続可能性を維持しながら、充電時間を高速化することが可能になるという。McLarenは継続的な開発とテストに向けて、顧客と緊密に連携している。

 IPG5は、2022年3月2日に英国のNational Motorcycle Museumで開催された「Future Propulsion Conference」で発表された。McLarenは現在、2024年に予定している量産に先駆けて、顧客企業にプロトタイプユニットを提供している。

SiCベースのインバーター

 SiCは、シリコンよりもバンドギャップが高い(シリコン1.1eVに対してSiCは3.2eV)。電子を価電子帯から伝導帯に遷移するために必要なエネルギーはより多くなるが、SiCのこうした特性は、より高い絶縁破壊電圧と高効率、高温時の熱安定性を実現できることを意味する。SiC-MOSFETのドレインソース間オン抵抗(RDS(on))は、同じ絶縁破壊電圧のシリコンデバイスと比べて最大で300〜400倍低い。

800V対応SiCインバーター

 SiC半導体は、自動車を含むいくつかのパワーアプリケーションにおいて、シリコンの理想的な代替品になる。SiCは、EVトラクションインバーターに使用すると、航続距離の延長とドライブサイクル性能の効率化をサポートすることが確認されている。

 IPG5は、急速充電に対応した800V SiCインバーターで、パワートレイン効率は標準値で97%を実現する。IPG5は重量が5.5kg、容積が3.79リットルで、最大350kW以上の電気モーターに250kWの電力を連続で供給できる。ダイレクトドライブを含む車載アプリケーション向けに「ISO 26262 ASIL-D」規格に準拠して設計されており、モーターを効率的に高速回転させることができる。

 Lambert氏は、「800Vが標準になる可能性は高いが、まだその時期ではない」と述べる。「現時点では800Vインフラは限られているが、利用できる環境が整うにつれて、対応車両が増え、800Vが一般的になると予想される。ガソリンを満タンにするのと同じくらいの時間で充電できるようになり、かつ日常的な使用に十分なレベルでバッテリーが小型化されることで、EVのコスト削減が進むだろう」と語る。

 「効率の向上は部品や冷却システムの小型化につながり、自動車の軽量化と車両レベルでの効率化を実現する。これにより、バッテリーを小型化できるため、自動車のさらなる軽量化と効率化につながる。最終的に、キロワット時当たりの走行距離が伸び、充電速度が上がると期待される」(同氏)

 インバーターにSiC技術を採用すると、回路の小型化と軽量化、重量配分の改善、総電力使用量の削減といったメリットが得られる。これは、SiC-MOSFETが非常に高いスイッチング周波数で動作できるため、インバーターの回路部品の多くを小型化できるからだ。SiCデバイスは、従来のシリコンパワー半導体よりも大きな電圧と電流で動作できるため、高温でも電力密度が高く、スイッチング損失が低くなる。

 800Vアーキテクチャは、電気配線の削減と充電の高速化を可能にすることで、次世代の電気自動車に対応できるように設計されている。

【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】

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