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潮目が変わりつつある世界半導体市場 ―― アプリケーションからの分析大山聡の業界スコープ(55)(2/2 ページ)

» 2022年07月14日 11時30分 公開
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予断が許されない今後の見通し

 アプリケーション別にいえば、PCおよびスマホ市場は下振れ始めたが、「自動車および産業機器は変化なし」と言えそうである。前回も述べたが、メモリはDRAMもNANDも不足状態にはなっておらず、直近ではやや過剰感が出てきている。中国のロックダウンが解除されたので、PCやスマホの生産も通常状態に戻りつつあるが、肝心の需要が下振れてしまうと、今度は在庫の心配をせねばならない。では2023年に需要回復が期待できるのか。筆者としては、PC市場もスマホ市場もあまり期待できないと考えている。PC市場ではほとんどのユーザーが現状のスペックを問題視しておらず、新たな需要が期待できないだろう。スマホ市場も本格的5Gサービスが立ち上がるまでは現状のような停滞感が続く可能性が高い、と思われる。事実、大手スマホメーカーの中には、これから在庫調整に入ることを半導体/部品メーカーに公言している企業もあるという。それを聞いて、やはり今まで在庫を抱え込んでいたのか、これが半導体不足の一因になったのか、などと思った次第である。

 メモリのもう1つの重要アプリケーションにデータセンターがある。その中心である米州メモリ市場は2022年5月実績が前年比28.9%増。決して悪くない数値に見えるが、この市場は同60%増前後の成長から徐々に下落しているのが現状で、今後の見通しについても予断を許さない。

 自動車および産業機器市場においては、MCU、アナログIC、パワーディスクリートの比重が相対的に高く、メモリに過剰感が出てもあまり恩恵を受けない。MCUおよびアナログICに関しては徐々に不足感が改善されつつあるように見えるが、パワーディスクリートの不足感は改善されているようにみえない。特に注目度の高いIGBTおよびMOSFETは、2020年後半から現在に至るまで、出荷数量が実質的に頭打ちになって伸びていないのである。クルマの電動化に欠かせないこのデバイスの需要は、間違いなく増えているはずである。2021年から稼働を開始しているはずのInfineon Technologiesのパワーデバイス専用300mmラインは、現状どうなっているのか、気になるところである。

 IGBTおよびMOSFETなどの製品は、手掛けているメーカーが限られており、新規参入企業もいない。中国で「これから立ち上げよう」という動きはあるものの、必要な人材を集められずに苦労しているようだ。

半導体市況の潮目は確かに変わりつつある

 前回述べたように、半導体市況の潮目は確かに変わりつつある。メモリ市場はマイナスに落ち込む可能性が高く、スマホやサーバが伸びなければ、先端ロジックICの需要にも悪影響が出るだろう。それでもなお、IGBTやMOSFETのように、伸びる需要に供給が対応できなければ、これらのデバイス不足は引き続き継続する可能性が高い。また、ファウンドリーとキャンセル不可の長期契約を結んだデバイスメーカーや機器メーカーが今後どのような調整方法を採るのか。市況をかき乱す要因はいくつかありそうだ。機器市場からの実際の需要、それに至るサプライチェーンの動向を含めて、状況を注意深く観察していきたい。

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


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