鉄道向けの5G(第5世代移動通信)システムが、徐々に実現に近づいている。鉄道通信向けの新規格は、2Gから5Gへとセルラー通信の世代を飛び超えようとしているが、そのリリースは2025年の予定で、現在の仕様が完全に置き換わるのは2030年になる見通しだ。
鉄道向けの5G(第5世代移動通信)システムが、徐々に実現に近づいている。鉄道通信向けの新規格は、2Gから5Gへとセルラー通信の世代を飛び超えようとしているが、そのリリースは2025年の予定で、現在の仕様が完全に置き換わるのは2030年になる見通しだ。
新規格の完全な仕様が完成するのは、2022年末になるとみられている。
歴史ある2Gセルラー鉄道規格「GSM-R(Global System for Mobile Communications-Railway)」は、欧州や中国、インド、アフリカ、オーストラリアで現在も使用されている。しかし、ソフトウェアベンダーやハードウェアベンダーによると、2025年に鉄道利用向けの新しい5G仕様がリリースされ、初期のデジタルセルラー仕様からの置き換えが進む予定だという。
欧州連合鉄道庁(ERA)によると、GSM-Rは、グループ通信や位置依存アドレッシング、優先度、鉄道緊急通報、シャント通信などの特定の機能を提供することで、列車の運転手と交通管制センター間の円滑な通信を実現しているという。GSM-Rシステムは、列車と管制センター間を時速300マイル(時速483km)以上の伝送速度で通信できる。
問題は、GSM-Rがかなり古びた技術であることだ。同規格で利用可能な4MHzの帯域は複数の200KHzチャンネルをサポートできるため、限られた音声通信には十分である。GSM-R仕様は、ダウンリンク通信に876M〜880MHz、アップリンク通信に921M〜925MHzを使用する。
狭帯域のGSM-R通信の最大データ伝送速度はわずか9.6kビット/秒で、リアルタイムのデータ通信には不向きである。GSM-Rは、SMSのテキストメッセージの送信以上のことは処理できない。
5G NR仕様のスタンドアロン版をベースとする「次世代鉄道モバイル通信システム(FRMCS:Future Railway Mobile Communication System)」は、2022年末までに完成する予定である。同システムのニッチ仕様では、900MHzと1900MHzの整合周波数にアクセスできるようになる。これは、GSM-RからFRMCSへの移行の際に、鉄道事業者の鉄道指令制御システムの相互運用を維持するためである。
イスラエルに本拠を置く鉄道サイバーセキュリティの新興企業であるCylusの共同設立者でCTO(最高技術責任者)を務めるMiki Shifman氏は、「鉄道事業者はこれまで安全鉄道アプリケーションに適した基本的な通信方式、つまりGSM-Rを使用してきた」と述べている。
同氏は、「IoT(モノのインターネット)の予知保全やセキュリティテレメトリーCCTVなど、新しいタイプのアプリケーションを導入しようとすると、列車にさらにモデムを追加することになる。そして、より多くの種類の通信を追加することになるが、そうすると、Wi-Fiが必ずしも期待通りに動作しないなどの問題が発生する。その理由は、ある部分は標準化されているが、他の部分はオーダーメイドである、という事実だ」と説明した。
Shifman氏は、「通信のセキュリティは、Cylusと鉄道業界全体にとって大きな問題だ」と述べる。旧来のGSM-R規格は、「A5/1ストリーム暗号」という時代遅れのセキュリティ技術を使っている。シフマン氏は、GSM-Rが『セキュリティホール』だと述べた。
Shifman氏は、2025年に安全で信頼性の高いFRMCSシステムが登場することで、この状況は変わると見ている。「単一リンクを使用できるという事実は、多くのインフラに貢献するだけでなく、あらゆる種類のアプリケーションのスループットとレイテンシを向上できる。これは、通信事業者と乗客にとって大きな機会の扉を開くことになるだろう」(同氏)
Nokiaは、FMRCSによって、鉄道保守の簡素化、駅の照明やCCTVの遠隔制御、そして最終的には列車の自動運転などが可能になると主張している。注目すべきは、EricssonやHuaweiといった他のハードウェアベンダーも、同様にFMRCSの普及に熱心に取り組んでいることだ。
これは当然のことだろう。GSM-Rは、欧州だけでも18万kmを超える線路をカバーしている。ベンダーは、GSM-Rに代わる5G技術の契約を獲得することに積極的になっているはずだ。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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