東京大学らによる研究グループは、二次元金属のNbSe2薄膜と、二次元強磁性体のV5Se8薄膜を重ねた「磁性ファンデルワールス(vdW)ヘテロ構造」を作製することに成功した。ヘテロ構造の界面には「フェロバレー強磁性」という新たな状態が形成されていることも確認した。
東京大学の研究グループは2022年9月、北海道大学や大阪大学と共同で、二次元金属のNbSe2薄膜と、二次元強磁性体のV5Se8薄膜を重ねた「磁性ファンデルワールス(vdW)ヘテロ構造」を作製することに成功したと発表した。しかも、ヘテロ構造の界面には「フェロバレー強磁性」という新たな状態が形成されていることを確認した。
異なる物質を積み重ねて得られるヘテロ構造は、物質の種類や積層パターンによって、さまざまな物性や機能性を実現できる可能性が高い。中でも、vdW物質は層間の結合力が極めて弱く、機械的にはがれやすいという特長がある。このため、vdWヘテロ構造は、高い品質の二次元物質を簡便に作製するための手法として注目されている。ただ、強磁性体と非磁性金属を重ねた磁性vdWヘテロ構造で、非磁性金属に磁性を誘起させた事例は報告されていなかったという。
今回の研究では、非磁性金属のNbSe2薄膜と強磁性体のV5Se8薄膜を重ね、磁性vdWヘテロ構造を作製した。特に今回は、従来のスコッチテープを用いた「劈開法」ではなく、「分子線エピタキシー法」を用いて作製した。しかも、反射高速電子線回折という製膜モニタリング技術を活用することで、高品質の磁性vdWヘテロ構造を実現した。
研究グループは、V5Se8の層数を系統的に変化させた試料を作製し、異常ホール効果を測定した。この結果、V5Se8を極めて薄くした試料では、「正の異常ホール効果」が出現することを確認した。さらに、異常ホール効果の外部磁場角度依存性を評価したところ、「外部磁場を面内に傾けるとシグナルが増大する」という異常な振る舞いも見られたという。
これらの結果より、NbSe2とV5Se8を積層させた磁性vdWヘテロ構造では、NbSe2が強磁性状態を形成することが分かった。また、この強磁性状態は、スピンに加えてバレーも自発的に分極した「フェロバレー強磁性」であることも確認した。
今期の研究成果は、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の松岡秀樹大学院生(現在は理化学研究所創発物性科学研究センター創発デバイス研究チーム基礎科学特別研究員)、同研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター・物理工学専攻の岩佐義宏教授(理化学研究所創発物性科学研究センター創発デバイス研究チームのチームリーダー兼任)、中野匡規特任准教授(理化学研究所創発物性科学研究センター創発機能界面研究ユニットのユニットリーダー兼任)の研究グループと、北海道大学大学院工学院・大学院工学研究院の羽部哲朗研究員(現在は京都先端科学大学)および、大阪大学大学院理学研究科の越野幹人教授らによるものである。
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