半導体市場の不調が明らかになっている。本稿では、世界半導体市場統計(WSTS)のデータ分析を基に、今回の不況がリーマン・ショック級(もしくはそれを超えるレベル)であることと、その要因の一つとしてIntelの不調が挙げられることを論じる。
2021年のコロナ特需は終わりを迎え、半導体業界は不況に突入し始めた……と思っていたら、そんな不況を吹っ飛ばすビッグニュースが2022年11月10日(木)以降に日本列島を駆け巡った。
同日夜7時のNHKニュースが、トヨタ自動車、デンソー、ソニーグループ、NTT、NEC、ソフトバンク、キオクシア、三菱UFJ銀行の8社が出資する半導体の新会社「Rapidus(ラピダス)」が設立され、5年後の2027年に2nmプロセスノードの先端ロジック半導体を量産すると報じたのだ(図1)。
筆者はこのニュースにのけぞり、これはもはや暴挙を通り越して笑うしかないと思った。それはどう考えても“Mission Impossible”だからだ。
まず、誰が2nmのロジック半導体を設計し、誰がプロセス開発を行い、誰が量産するのか? 出資会社の中には半導体メーカーが2社含まれている。しかし、CMOSイメージセンサーを生産しているソニーは、そのセンサーに貼り付けるロジック半導体をTSMCに生産委託している。また、NAND型フラッシュメモリを生産しているキオクシアは、記憶装置のSSDに必要なコントローラーの設計と生産を外注している。生産しているのは、やはりTSMCである。
つまり、Rapidusに集った8社には、ロジック半導体の設計、開発、生産ができる半導体メーカーが含まれていない。そして、日本には9世代前の40nmレベルの技術者しかいない。一体Rapidusは、2nmを開発する技術者を、どこから、どうやって集めるつもりなのだろうか?
決定的な問題は、2nmのロジック半導体の量産に必要な最先端EUV(極端紫外線)露光装置(以下、単にEUVとする)をすぐに入手できず、入手してもその取扱いが大変難しいということである。オランダのASMLしか生産できないEUVは先端半導体メーカーから引っ張りだこであり、現在100台待ちの状況であると聞いている。RapidusもEUVの入手は2年後の2024年末と言っている。
さらにEUVを使いこなすことが相当難しい。現在、最先端を独走中のTSMCは2018年の1年間で100万枚のEUV露光の練習を行って、2019年に初めて7nm+の孔にEUVを量産適用した。その後、2020年に配線にもEUVを適用する5nmが立ち上がったが、現在3nmの立ち上げに苦戦している。
Samsung Electronicsは、ファウンドリーの規模が小さいため、巨大なDRAM工場の一部を間借りして30〜40万枚のEUV露光の練習を行ったが、不十分だったようで、7nmや5nmの歩留まりが悪く、最先端の3nmに至っては絶望的な状況で、2nmの練習を行っているのではないかとうわさされている。
2021年にEUVを導入した米Intelは、2022年に初めてEUVを適用したテクノロジーノード「Intel 4」で生産する予定のプロセッサ「Meteor Lake」がうまく立ち上がらず、2023年の出荷もかなり怪しいと聞いている(この件は本稿のテーマにも直結する)。
このように、先端半導体メーカーがEUVを使った最先端半導体の立上に、軒並み苦戦している。そのような中で、40nmレベルの実力しかない日本が、32nm、28nm、22nm、16/14nm、10nm、7nm、5nm、3nmを一挙に飛び越えて2027年に量産するということは、どう考えたって不可能だろう。
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