理化学研究所(理研)や名古屋大学などの研究者らによる国際共同研究グループは、バリウムとニッケルの硫化物である「BaNiS2」が、質量を持たないディラック電子と、液晶のように振る舞う電子が共存している物質であることを発見した。
理化学研究所(理研)や名古屋大学などの研究者らによる国際共同研究グループは2022年12月、バリウムとニッケルの硫化物である「BaNiS2」が、質量を持たないディラック電子と、液晶のように振る舞う電子が共存している物質であることを発見した。
BaNiS2はこれまでの研究により、質量のないディラック電子が存在することが分かっていた。しかし、電子相関(電子間の斥力相互作用)の影響は知られていなかったという。そこで研究グループは、独自に開発した走査型トンネル顕微鏡法/分光法(STM/STS)を用い、電子相関によって引き起こされることが多い「電子ネマティック状態」を探すことにした。
BaNiS2の構造を上から見ると、90度の回転に対して不変な対称性を持っている。電子ネマティック状態が現れると、電子にとって直交する二つの方向は等価ではなくなるという。
実験では、STM/STS装置を1.5K(約−271.6℃)の極低温で動作させた。熱に由来するエネルギー分解能の劣化を抑え、熱膨張によるドリフトの影響を取り除くためである。こうして得られた高品質のデータにより、BaNiS2ではエネルギーの小さな電子が、極めて少ないことが分かった。
電子状態の空間分布を広いエネルギー範囲で調べた。そうすると、エネルギーによってその方向が90度回転するストライプ状の構造になっていることを確認した。ストライプの間隔はニッケル原子の間隔に対応しているため、原子の周期に関する対称性は保たれており、回転の対称性だけが破れている。この状況が、電子ネマティック状態に期待される振る舞いだという。
電子状態の空間分布をフーリエ変換し、電子の運動量とエネルギーの関係を調べた。中央付近で2本の線が交差するような振る舞いが、ディラック電子の特長である。電子の運動量で、方向によるエネルギーの違いはほとんどないが、実験ではわずかにずれが生じた。BaNiS2の電子ネマティック状態は、直交する2つの方向で、特定の運動量を持った電子のエネルギーに差が出ることが特長だという。
さらに、電子相関の効果を取り入れた理論手法を用い、BaNiS2はディラック電子と電子ネマティック状態が共存する物質であることを、完全に再現できたことを明らかにした。
今回の研究成果は、理研創発物性科学研究センター創発物性計測研究チームのクリストファー・J・バトラー研究員や幸坂祐生上級研究員(当時は現創発物性計測研究チーム客員研究員、京都大学大学院理学研究科教授)、花栗哲郎チームリーダー、名古屋大学大学院理学研究科理学専攻物理科学領域の山川洋一講師、大成誠一郎准教授、紺谷浩教授ら国際共同研究グループによるものである。
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