理化学研究所(理研)を中心とする国際共同研究グループは、開発した極薄の「伸縮性導体」が皮膚や臓器(神経)に密着し、生体情報を取得するためのセンサー用電極として利用できることを実証した。
理化学研究所(理研)を中心とする国際共同研究グループは2022年11月、開発した極薄の「伸縮性導体」が皮膚や臓器(神経)に密着し、生体情報を取得するためのセンサー用電極として利用できることを実証したと発表した。
国際共同研究グループは今回、厚みが約1.2μmというシリコーンゴム「ポリジメチルシロキサン(PDMS)」基板上に、導電層として厚みが約50nmという金を成膜した極薄の弾性導体を設けた。導体の総膜厚は約1.3μmで、導電率を維持しながら最大300%の引っ張りひずみに対応する。
伸縮性に優れた極薄導体を実現するため、PDMSと金の熱膨張率の違いを利用して、熱蒸発プロセス中に金のマイクロクラック構造を形成した。ただ、厚みが約1μm程度のPDMSだと、十分に熱膨張をしないため、金マイクロクラック構造は形成されなかったという。
そこで今回、厚みが約1μmのPDMSの下に、厚みが約100μmという厚いPDMSサポート層を挿入し、金を蒸着させる手法を考案した。この結果、厚いPDMS層で十分な熱変形が生じ、薄いPDMS上に金マイクロクラック構造を形成することができたという。
研究グループは、開発した極薄伸縮性導体を、心電図計測用の電極として用い、人の皮膚上で実験を行った。薄い粘着性のイオン導電性ポリマー層(pDAM)で金電極表面を覆うことにより、極薄伸縮性導体と皮膚の間の接着性を大幅に改善。この結果、ランニングや水泳など激しい運動の後に8時間連続着用した場合でも、心電図信号を安定して記録することができたという。
また、厚みのある電極と今回開発した極薄伸縮性導体をラットの体内に埋め込み、刺激された筋肉の生体信号(複合神経活動電位)を計測する実験も行った。この結果、極薄伸縮性導体は体内の臓器へ隙間なく密着するため、電気刺激伝達や生体信号記録の性能は、厚い電極に比べ向上することが分かった。
研究グループは、極薄伸縮性導体の課題として、引き伸ばした時に電気抵抗が増加する点を指摘する。これを解決するため、伸縮性ポリマーや液体金属を用いた新素材との組み合わせなどを検討していくという。
今回の研究成果は、理研開拓研究本部染谷薄膜素子研究室の福田憲二郎専任研究員(創発物性科学研究センター創発ソフトシステム研究チーム専任研究員)や染谷隆夫主任研究員(同チームリーダー)を中心に、東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻の横田知之准教授、シンガポール南洋理工大学のCHEN Xiaodong教授および、シンガポール国立大学のLIU Xiaogang教授ら、国際共同研究グループによるものである。
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