理化学研究所(理研)の研究グループは、室温環境においてキラル磁性体中の単一スキルミオンを電流で駆動させることに成功、その動的振る舞いを観察した。
理化学研究所(理研)の研究グループは2021年11月、室温環境においてキラル磁性体中の単一スキルミオンを電流で駆動させることに成功、その動的振る舞いを観察したと発表した。
キラル磁性体中の単一スキルミオンの電流駆動はこれまで、−150℃という低温条件下でしか実証されていなかったという。そこで研究グループは、室温でスキルミオンを生成できるキラル磁性体「Co9Zn9Mn2」を用い、室温環境における電流駆動の実験を行った。
実験に向けて、パルス電流を流せるマイクロデバイスを作製した。Co9Zn9Mn2のバルク結晶から厚み約160nmの薄板を切り出し、この薄板の両端にタングステンと白金電極を取り付けた構造である。
実験では、作製したデバイス板面へ垂直下向きに80mTの磁場を印加しながら、パルス電流を流した。これにより、直径約100nmの単一スキルミオンを生成することに成功した。生成されたスキルミオン中心の磁気モーメントは上向きで、そのトポロジカル数は「+1」となった。
研究グループは、作製したデバイスに150ナノ秒のパルス電流を流し、生成されたスキルミオンの挙動をローレンツ電子顕微鏡で観察した。デバイスの右から左に5.05×1010A/m2の電流を流したところ、トポロジカル数「+1」のスキルミオンは、左下から右上へ移動した。
磁場(50mT)を上向きに反転させたところ、スキルミオンのトポロジカル数は「−1」に変わった。この状態でパルス電流の方向を変えず、4.82×1010A/m2の電流をデバイスに流したところ、スキルミオンの並進運動の方向はそのままで、ホール運動の方向が逆になった。
また、電流が小さいとスキルミオンは固定されたままで動かないが、JC(臨界電流密度)を超えると、スキルミオンはゆっくりとしたクリープ運動を行う。電流がさらに大きくなるとスキルミオンは流動し、30°弱のホール角を維持しながら、電流の大きさに合わせて速度は直線的に増加したという。
今回の研究成果は、理研創発物性科学研究センター電子状態マイクロスコピー研究チームのポン・リソン基礎科学特別研究員や于秀珍チームリーダー、強相関物質研究グループの軽部皓介研究員、田口康二郎グループディレクター、永長直人副センター長(理研創発物性科学研究センター強相関理論研究グループグループディレクター、東京大学大学院工学系研究科教授)および、十倉好紀センター長(理研創発物性科学研究センター強相関物性研究グループグループディレクター、東京大学卓越教授/東京大学国際高等研究所東京カレッジ)らによるものである。
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