理化学研究所(理研)は、可視光に応答し比誘電率が約100倍も変化する液晶性強誘電体を開発した。この材料を電極で挟めば、フォトコンデンサー素子を実現できるという。
理化学研究所(理研)創発物性科学研究センターソフトマター物性チームの西川浩矢特別研究員や荒岡史人チームリーダーらによる研究チームは2022年3月、可視光に応答し比誘電率が約100倍も変化する液晶性強誘電体を開発したと発表した。この材料を電極で挟めば、フォトコンデンサー素子を実現できるという。
最近発見された、強誘電性を持つネマチック液晶は、有機分子として1万を超える比誘電率が報告されており、エネルギー材料やロボティクス材料などへの応用が期待されている。しかし、強誘電性の発現原理はまだ解明されていないという。
研究チームは今回、「DIO」と呼ばれる強誘電性ネマチック相を示す含ジオキサンフッ素系液晶性化合物の材料に、可視光で光異性化反応を示す、「Azo-F」と呼ばれるアゾベンゼン基を持つ色素を少量添加した。
Azo-Fを添加した強誘電性ネマチック液晶は、緑色の光(波長500〜550nm)を照射すると比誘電率が減少。逆に青色の光(波長400〜450nm)を照射すると比誘電率が増加した。Azo-Fを4%混合した強誘電性ネマチック液晶の特性を評価したところ、光を照射する前の比誘電率は最大値で約1万8000(εmax)であった。
これに緑色の光(波長525nm、180mWcm-2)を30秒間照射すると、比誘電率は最小値で約200(εmin)まで下がった。さらに、青色の光(波長415nm、7mWcm-2)を30秒間照射すると、比誘電率はほぼ1万8000に回復することが分かった。比誘電率の変化率(εmax-εmin)/εmaxは99.5%と極めて高い。
緑色と青色の光を交互に照射すれば、可逆的に変化し何度でも繰り返すことができるという。今回は100回程度までの繰り返しを確認した。レーザーなどの強い光を用いると、数秒以下の応答時間で変化することが分かった。
強誘電性ネマチック液晶が、光照射によってどのように状態変化するのかを、紫外-可視吸収分光測定やX線回折法、偏光顕微鏡による観察によって解析した。緑色の光を照射するとAzo-Fが「シス体」と呼ばれる状態となり、強誘電性ではない通常のネマチック液晶に相転移する。
これに対し、青色の光を照射すると、Azo-Fは「トランス体」と呼ばれる状態となり、強誘電状態を復元することが分かった。これらの結果から、強誘電性ネマチック液晶は分子の局所的な配向構造が、強誘電性の発現に関わっていることが明らかとなった。
研究チームは、平たんなITO電極に光応答性強誘電性ネマチック液晶を挟み込んだ「液晶セル(平行平板コンデンサー)」を作製し、その特性を評価した。電極面積50mm2、電極間距離17.8μmの液晶セルでは、約4nFから360nFまで静電容量を光制御できることが分かった。
さらに、実用レベルでの動作を確認するため、試作したフォトコンデンサーを電気発振回路に組み込み、光を照射した環境で評価した。この結果、100Hzから8.5kHzの範囲で発振周波数を変化させることができたという。
今回の実験では、加熱を必要とする材料を用いた。既に、室温で利用できる強誘電性ネマチック液晶も開発されており、これを用いれば室温動作のフォトコンデンサーを実現できるとみている。
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