東京大学と大阪公立大学は2022年12月、産業技術総合研究所の協力を得て、大気中でも安定し、ホール/電子輸送性に優れた「アンバイポーラ型」の分子性半導体材料を開発したと発表した。
東京大学と大阪公立大学は2022年12月、産業技術総合研究所の協力を得て、大気中でも安定し、ホール/電子輸送性に優れた「アンバイポーラ型の分子性半導体材料」を開発したと発表した。
有機エレクトロニクスデバイスの新たな半導体材料として、ホール(プラスの電荷をもつキャリア)を輸送する「p型半導体」と、電子(マイナスの電荷をもつキャリア)を輸送する「n型半導体」の性質を兼ね備えたアンバイポーラ型半導体が注目されている。ただ、大気中で安定した材料を入手することが難しく、複合材料だと界面における伝導効率の低下など、課題があったという。
研究グループは今回、d電子をもつニッケル元素を中心に据えたd/π共役系分子に着目した。その理由は、電子構造がアンバイポーラ型の電荷輸送特性を発現させるのに理想的であることだ。しかも、高安定で水や酸素と反応しにくい上、比較的安価なニッケルを用いて簡便に合成できる点などを挙げた。
これらの特長に加え、高い「結晶性」と「溶解性」を両立させるため、研究グループはd/π共役系骨格と側鎖の組み合わせの中から、これらの条件を満たす新材料を探した。
研究を重ねていく中で、新たな発見もあったという。それは、「側鎖上の炭素数が違うと、単結晶中での積層構造が劇的に変化する」ということである。例えば、炭素数が「1」の置換基を導入したものは1次元的な積層様式となる。炭素数が「2」または「3」の置換基を導入すると、デバイスの安定駆動に有利な2次元的な電子構造を持つ「ヘリングボーン型」の積層様式となった。これは膜厚が数十nmとなっても再現できるという。
こうして得られた薄膜を半導体層として用いたFET(電界効果トランジスタ)は、アンバイポーラ型の電荷輸送特性を示した。しかも大気下においてキャリア移動度とオン/オフ比のいずれも高い水準となった。
今回の研究は、東京大学物性研究所の伊藤雅聡大学院生や藤野智子助教、森初果教授のグループと尾崎泰助教授および、大阪公立大学大学院工学研究科の牧浦理恵准教授と武野カノクワン研究員が、Lei Zhang大学院生(研究当時)、横森創研究員(現在は立教大学理学部化学科助教)、産業技術総合研究所電子光基礎技術研究部門の東野寿樹主任研究員らと協力して行った。
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