東京大学の研究グループは、環状アミド構造を有する新たなパイ電子系ベンゾ[de]イソキノリノ[1,8-gh]キノリンジアミド(BQQDA)骨格を開発し、有機電界効果トランジスタへの応用に成功した。
東京大学大学院新領域創成科学研究科の岡本敏宏准教授やCraig P.Yu特任助教、熊谷翔平特任助教、竹谷純一教授による研究グループは2023年1月、環状アミド構造を有する新たなパイ電子系ベンゾ[de]イソキノリノ[1,8-gh]キノリンジアミド(BQQDA)骨格を開発し、有機電界効果トランジスタへの応用に成功したと発表した。
研究グループはこれまで、電子不足のn型有機半導体BQQDI(ベンゾ[de]イソキノリノ[1,8-gh]キノリンテトラカルボン酸ジイミド)誘導体を開発し、有機電界効果トランジスタへの有用性を示してきた。イミド結合のBQQDI骨格は、電子受容性の指標となる最低空軌道(LUMO)が−4.0eV以下という深い準位である。この特性は、n型有機電界効果トランジスタに有用であるが、浅いLUMO準位が求められる有機薄膜太陽電池などには適さないという。
研究グループは今回、BQQDIの環状イミド結合を、環状アミド結合に置き換えたBQQDAパイ電子系骨格を設計した。この効果について量子化学計算を用いて検証した。この結果、LUMO準位が大幅に上昇することが分かった。しかも、BQQDA骨格において一部の元素や官能基を置換すれば、LUMO準位を制御できることも判明した。
BQQDAの合成は、BQQDIと共通の前駆体を用い、1ステップで行えることが分かった。また、BQQDA骨格を基軸とした官能基の導入や、アミドからチオアミドへの変換が可能であることも明らかとなった。実験では、BQQDAで2つあるアミド部位のうち、片方のみをチオアミド化した「BQQMTA」と、両方を変換した「BQQDTA」とを単離することにも成功した。これによって、より詳細な物性制御に展開できることが分かったという。
得られたBQQDA化合物群のLUMO準位を電気化学測定した。この結果、−3.6eVから−4.1eVの広い範囲で変調されることが分かった。この数値は計算値とほぼ一致しているという。可視光吸収特性を確認すると、官能基や元素置換による段階的な光吸収帯の変化が見られた。
具体的なデバイス応用例として、最も深いLUMO準位のシアノ置換BQQDA-CN2薄膜を塗布法で基板上に形成、有機電界効果トランジスタを試作した。このトランジスタは約1cm2V-1s-1という電子移動度を示した。
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