東京大学と理化学研究所は、鉄とシリコンの化合物「FeSi」において、トポロジカル物性やスピントロニクス機能が、室温下で実現できることを東北大学との共同研究で明らかにした。次世代MRAMへの応用が期待される。
東京大学と理化学研究所は2022年12月、鉄とシリコンの化合物「FeSi」において、トポロジカル物性やスピントロニクス機能が、室温下で実現できることを東北大学との共同研究で明らかにした。次世代MRAMへの応用が期待される。
FeSiは、結晶内部が非磁性絶縁体で、表面は金属強磁性状態であることが最近発見された。しかも、その表面では強いスピン軌道相互作用が生じ、電流誘起磁化反転が起きることも分かった。ただ、磁気転移温度は約200Kであり、極めて低い温度でしか磁化反転しないのが課題であった。
そこで研究グループは、Si基板上にFeSi薄膜を作製し、この薄膜にさまざまな非磁性絶縁体薄膜を接合して、表面の電子状態に対する近接効果を調べた。この結果、接合した絶縁体材料によって、FeSiが有する表面強磁性磁化は大きく変調されることが分かった。
具体的には、Si接合では磁化がほとんど抑えられた。フッ化物(BaF2、CaF2)接合だと磁化の大きさは増大し、磁気転移温度も室温を大きく超えた。酸化物接合はこれらの中間的性質を示した。また、界面電子状態の第一原理計算により、近接効果がFeSi表面電子と接合した絶縁体材料間における電子状態の混成度合いに由来することも明らかとなった。
研究グループは、フッ化物接合によって磁気転移温度が上昇したFeSiを用い、室温(300K)下において磁化の向きを電流で制御することにも成功した。電流を流すとFeSi表面の垂直な磁化が上下に反転した。
磁化の向きはホール効果によって検出した。外部磁場を印加しなくても、閾値以上の大きな電流を流すと、磁化の向きを繰り返し反転できることも確認した。磁化の向きを反転するのに必要な閾電流値は、室温で磁化反転する既存の物質に比べ極めて小さい。このため、環境負荷が小さく、より省電力の磁気メモリを実現できる可能性が高いという。
今回の研究は、東京大学大学院工学系研究科の堀智洋大学院生、金澤直也講師、平山元昭特任准教授、理化学研究所創発物性科学研究センターの十倉好紀センター長らを中心とする研究グループが、東北大学金属材料研究所の塚崎敦教授、藤原宏平准教授らの研究グループと共同で行った。
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