塗布型半導体で高速動作の相補型発振回路を開発:温和な転写方法を用いて積層
東京大学は、溶液を塗布して形成するp型有機半導体とn型無機半導体(酸化物半導体)をダメージなく集積するプロセス技術を開発した。この技術を用い、高速動作が可能な「有機無機ハイブリッド相補型発振回路」を開発した。
東京大学大学院新領域創成科学研究科、同マテリアルイノベーション研究センターの共同研究グループは2023年1月、溶液を塗布して形成するp型有機半導体とn型無機半導体(酸化物半導体)をダメージなく集積するプロセス技術を開発したと発表した。この技術を用い、高速動作が可能な「有機無機ハイブリッド相補型発振回路」を開発した。
今回開発した有機無機ハイブリッド相補型発振回路の作製プロセスはこうだ。まず、酸化インジウム-酸化亜鉛(IZO)を用い、酸化物半導体の形成とTFT(薄膜トランジスタ)のパターニングを行った。
次に、IZOの封止層と有機半導体の下地層を兼ねる絶縁層を形成し、C9-DNBDT-NWを積層した。ここで重要となるのがC9-DNBDT-NWの積層方法である。C9-DNBDT-NWはまず、超親水性処理ガラス上に塗って単結晶薄膜とし、水を用いて転写した。これによって、IZO TFTの特性に影響を与えず積層することが可能になったという。同様に、フォトリソグラフィー技術を用いてC9-DNBDT-NW TFTを形成し、有機無機ハイブリッド相補型発振回路を作製した。
有機無機ハイブリッド相補型発振回路の製作コンセプト 出所:東京大学
開発した技術を用い、5段の相補型リングオシレーターを試作し、その特性を評価した。この結果、大気下において77kHzの周波数で動作(駆動電圧10V)することを確認した。動作速度は駆動電圧に依存するといわれており、試作したC9-DNBDT-NW/IZO相補型回路は、「塗布型半導体デバイスとして、最高クラスの動作速度である」という。開発した素子は、プラスチック基板上に作製することも可能で、フレキシブルデバイスを実現するための要素技術となる。
上図は5段相補型リングオシレーターの回路図と光学顕微鏡像、下図は駆動電圧10Vにおける発振波形とフィルムデバイスのイメージ 出所:東京大学
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