自動車業界には、トヨタ自動車などの完成車メーカーを頂点としたヒエラルキーがある(図7)。そして、クルマメーカーは、必要な部品を、必要な時に、必要な量だけ調達する「ジャスト・イン・タイム」と呼ばれる生産方式でクルマをつくっている。
2021年Q1とQ2の車載半導体不足は、ジャスト・イン・タイムの生産方式の弊害によって生じた。その詳細は、2021年4月21日に、本コラムに寄稿した(『半導体不足は「ジャストインタイム」が生んだ弊害、TSMCが急所を握る自動運転車』)。以下に簡単に概略を説明する。
2020年2月以降、毎月毎月、クルマが減産となった。そのため、トヨタ自動車などの完成車メーカーは、デンソーなどの1次下請け、ルネサスなどの2次下請けの順で、車載半導体の注文をキャンセルし続けた。
ここで、ルネサスなどの車載半導体メーカーは、28nm以降のロジック半導体とMCUの全てを、3次下請けとなるTSMCなどのファウンドリーに生産委託していた(ファウンドリーの世界シェアの過半以上をTSMCが独占していることから、話を簡単にするために以下はTSMCに限定する)。従って、TSMCも、車載半導体を、毎月毎月キャンセルされ続けたことになる。
そのTSMCには、28nmのロジック半導体の生産委託が殺到していた(なぜ28nmなのかは後述する)。そのため、車載半導体のキャンセルで空いた穴は、すぐに別の半導体で埋まってしまった。
そのような中、クルマの生産は2020年9月には回復したため、完成車メーカーは、1次下請けおよび2次下請け経由で、再びTSMCに28nmのロジック半導体とMCUに注文しようとしたが、TSMCにはそれに応じる余裕はなかったと思われる。
そして、2020年中はキャンセルされたときに生産した在庫で何とか凌いでいたが、その在庫も切れた2021年Q1に28nmのロジック半導体とMCUが不足して、世界中のクルマメーカーが減産に追い込まれる事態になった訳である。
このようにしてみると、2021年Q1とQ2の車載半導体不足はジャスト・イン・タイムの生産方式が招いたものであり、一言でいえば、クルマメーカーの自業自得である。
2021年Q1とQ2に、世界中のクルマメーカーを減産に追い込んだ28nmのロジック半導体は、とてもユニークな特徴を持つことを説明しよう。それは以下の通りである(図8)。
例えば、Appleの「iPhone」などの新型スマートフォン、最先端PC、高速サーバ用プロセッサなど、常に高性能が要求されるロジック半導体のトランジスタは、プレーナ型からFinFETへ、そしてGAA(Gate-All-Around)へと構造を変化させる必要がある。その際、半導体のチップコストが上昇するが、それよりも高性能であることが優先されるため、微細化を進め、より最適なトランジスタ構造が選択される。
しかし、多くの電子電機製品は、それほど高性能は必要ない。それより、コストパフォーマンスに優れている半導体を使いたい。それは何かというと、プレーナ型トランジスタの最後の世代である28nmのロジック半導体である。だから、コロナ禍で、各種電子電機製品の需要が爆発し、それに使われる28nmがTSMCに殺到したのである。
なお、TSMCなどのファウンドリーにとって、22nmは28nmの改良品なので、基本的に28nmと同じである。
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