さて、話を車載半導体「不足」に戻そう。2021年Q3以降は、28nmの「不足」は解消されている。恐らく、TSMCなどのファウンドリーが、日米欧の政府から圧力をかけられたため、死に物狂いで車載用の28nmのロジック半導体とMCUを量産したのだろう。その結果、車載用の「不足」は解消されてしまった。
しかし、2021年Q3以降も、依然として車載半導体の「不足」が続いている。では、その「不足」している半導体は何かというと、パワー半導体やアナログ半導体である。そしてこれらパワー&アナログは、レガシーな半導体であるため、ルネサスなどの車載半導体メーカーが、TSMCに生産委託しないで、自社で生産するものである。
では、なぜ、レガシーなパワー&アナログ半導体が「不足」するのか?
その原因は、クルマのEV化と自動運転化が急速に進み始めたからだと推測できる。筆者の聞き取り調査によれば、クルマ1台に搭載される半導体の金額は、内燃エンジン車が約300米ドルであるのに対して、ハイブリッドは700米ドル、EVは900米ドルになるという。また、自動運転については、レベルゼロ(手動運転)に対して、自動運転のレベル1または2では700米ドル、レベル4または5には3000米ドルもの半導体が搭載されるという(図9)。
となると、半導体搭載金額は、手動運転の内燃エンジン車が300米ドル、レベル1および2のハイブリッド車が1400米ドル、レベル4および5の完全自動運転EVが3900米ドルにもなる。
EVにはモーターを駆動するためのパワー半導体が必要である。加えて、自動運転車には、多数のセンサーからのアナログ情報を処理するアナログ半導体が必要になる。
つまり、2020年から2022年にかけて、クルマの生産台数が減ったにもかかわらず、EV化と自動運転化が急速に進み始めたため、クルマに搭載されるパワー&アナログ半導体の需要が急拡大し、それが不足しているので、クルマの減産が続くことになったわけだ。
世界半導体市場統計(WSTS)のデータからも、車載半導体の出荷個数が急拡大していることが確認できる(図10)。クルマ用のロジック、MCU、アナログ、全ての出荷個数がコロナ前の水準を上大きく回っている。特に、アナログ半導体の急成長が著しい(なお、WSTSの定義ではパワーはアナログに含まれる)。
そして、EV化と自動運転化は、今後ますます普及が加速する。それはつまり、レガシーなパワー&アナログ半導体の需要が今後も増大し続けることを意味する。しかし、ルネサスなどの車載半導体メーカーは、パワー&アナログ半導体の供給量を飛躍的に拡大することができない事情がある。
図11に、世界全体における12インチ(300mm)ウエハー換算のテクノロジーノード別の半導体生産キャパシティ(万枚/月)を示す。テクノロジーノードが100nmよりレガシーなキャパシティのほとんどが8インチ(200mm)の半導体工場である。一方、100nm以降の先端半導体のキャパシティは全て12インチの半導体工場である。
このように、100nm付近に、8インチと12インチの境界線がある。その理由は、2000年頃に、半導体の微細化が130nm以降になるときに、シリコンウエハーの直径が8インチから12インチへ大口径化した。その後、微細化が進むにつれて、12インチ用の製造装置が、その微細性に対応するように進歩してきたからだ。
従って、8インチの微細性は100nm付近で止まったままだが、12インチでは年々、微細化が進み、2022年12月29日からTSMCが最先端の3nmの半導体を量産するに至っている。
そして、現在、車載半導体不足となっているレガシーなパワー&アナログ半導体の多くが8インチの半導体工場で生産されている。しかし、このレガシーなパワー&アナログ半導体の生産キャパシティを飛躍的に増大させることは難しい。
図11を見ても、12インチのキャパシティは年々増えていくが、8インチのキャパシティの増え方は鈍いことが分かる。その理由が二つある。
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