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いつまでたってもクルマが買えない 〜今後絶望的に車載半導体不足が続く湯之上隆のナノフォーカス(59)(5/5 ページ)

» 2023年02月20日 11時30分 公開
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レガシーな半導体の生産キャパシティを増やせない理由

 まず、オランダASML、米アプライドマテリアルズ、米ラムリサーチ、日本の東京エレクトロンなどの大手の装置メーカーは、8インチ用の製造装置をつくりたがらない(というよりほとんどつくっていないと思われる)。これらの装置メーカーは、「8インチ用ではなく12インチ用の製造装置を買ってほしい」と主張するからである。

 その結果、製造装置市場では、8インチ用の装置が極端な品薄となっており、中古装置が市場に出た途端に、あっという間に高値で売れてしまう事態が起きている。従って、レガシーなパワー&アナログ半導体の需要が大きいからと言って、8インチの半導体工場を新増設することが極めて困難になっているのだ。

 8インチの装置が入手できず、8インチの工場が建設できないのなら、需要が増大しているレガシーなパワー&アナログ半導体を12インチ工場でつくればいいでと思われるかもしれない。

 しかし、それは簡単なことではない。12インチの製造装置は、最先端の微細化ができるように進歩を続けていると記載した。例えば、TSMCが3nmの生産に用いている最先端の各種製造装置で、100nm以上(例えば200〜500nm)のパタンを加工しようとしても、恐らくできない。

 ラフなパタンの加工には、それに適したプロセスと製造装置が必要であり、最先端のプロセスと装置ではその加工はできないのである。つまり、今まで8インチの工場で生産していたレガシーなパワー&アナログ半導体を、いざ12インチの工場で生産しようとしても、不可能とまでは言わないが、相当困難なのである。

今後絶望的に車載半導体「不足」が続く

 クルマ産業界では、今後ますます自動運転化とEV化が進むだろう。その結果、クルマ用のパワー&アナログ半導体の需要が右肩上がりに増大することになる。しかし、8インチ工場で生産しているレガシーなパワー&アナログ半導体の生産キャパシティを急拡大させることは難しい。

 その理由は、8インチの装置が入手困難なため8インチ工場の新増設が困難であり、8インチの工場で生産していたレガシーなパワー&アナログ半導体を12インチの工場で生産することもかなり難しいからである。

 となると、クルマ産業が100年に1度のCASE(Connected、Autonomous/Automated、Shared、Electric)の大変革期を迎え、自動運転化とEV化が進み続ける限り、レガシーなパワー&アナログ半導体が絶望的に「不足」することになる。

 加えて、CASEのうちConnectedには5G(第5世代移動通信)用半導体、Autonomous/AutomatedにはAI半導体が必要であり、これらはTSMCの最先端プロセスが必要不可欠である。そして、TSMCの最先端プロセスは、ほぼAppleが独占しており、このキャパシティをクルマメーカーが抑えるのは相当難しい。

 つまり、今後のクルマ産業を展望すると、レガシーなパワー&アナログ半導体および、TSMC1社しか生産できない最先端の5G用半導体とAI半導体という、まさに両極端の車載半導体が「不足」することになる。

 クルマメーカーにとっては受難の時代が到来したといえよう。そして自身の分析によれば、筆者がレベル3あたりの自動運転機能付きEVを買える日は、当分来そうにもない。……なんてこった!

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筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。


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