自動車における半導体不足は一部でまだ続いていて、新車はおろか中古車ですら手に入りにくくなっている。本稿では、この「不足」している半導体は何なのか、なぜ不足しているのか、そしてクルマの生産はいつ正常に戻るのかを考察する。
クルマを買い換えたいけれど新車の納車が長期化していて買えない、という記事を2021年11月26日に本コラムに寄稿した(『「半導体不足」は本当か? クルマ大減産の怪』)。
その後、クルマは買えるようになったのだろうかと思って、トヨタ自動車の納車時期のサイトを見て驚いてしまった。『コロナ感染の拡大並びに世界的な半導体部品不足により、現在、多くの車種で生産遅れが発生しております』という一文から始まる納車時期のメドは、本当にこれでクルマのビジネスができるのかというほど、長期化することが延々と書かれている(図1)。
では中古車でも探そうかと思って調べてみると、何と、中古車の価格が新車より高い異常現象が起きているという。そして、その異常現象を「クルマのロレックス化」というのだそうだ(鈴木貴博、『中古車が新車より高い「ロレックス化」、価格高止まりの恐れがあるワケ』、2023年1月20日)。
新車はなかなか買えない。その一方で、中古車が新車より高い「ロレックス化」が起きているらしい。もうクルマなんぞ買おうとしない方がいいのだろうか?
しかし、なぜ、新車の納車が長期化し、中古車の価格が高騰する「ロレックス化」などという異常現象が起きるのだろうか? トヨタ自動車のHPには「世界的な半導体部品不足により」という一文があり、前掲の「ロレックス化」の記事にも「世界的な半導体不足」が原因であると書かれている。
しかし、何でもかんでも「半導体不足」と言っているが、その不足している半導体は一体、何か? そして、前掲「ロレックス化」の記事には、「半導体不足の解消には2024年一杯くらいかかる」という記載があるが、本当に2024年中に半導体不足の問題は解決するのだろうか?
本稿では、車載半導体の視点からクルマ生産がいつ正常に戻るかを論じたい(というのは自分がいつ新車を買えるかを知りたいからだ)。まず、世界と日本のクルマ生産の実態を明らかにする。次に、日本ではクルマの減産が常態化していることを指摘する。さらに、不足している半導体が、28nmのロジック半導体とMCU(Micro Controller Unit、通称マイコン)から、レガシーなパワー&アナログに変化していることを説明する。
その上で、電気自動車(EV)と自動運転車が普及しつつある今後は、絶望的にレガシーなパワー&アナログ半導体が不足する展望を述べる。クルマを買い替えるなら、レベル3あたりの自動運転機能付きEVと思っていたが、残念ながら筆者の望みは当分かないそうもない。
図2に、世界のクルマ生産台数の年次推移を示す。2010年以降、右肩上がりに増大していたクルマ生産台数は、2017年に9730万台でピークアウトする。そして、コロナ前の2019年に9218万台となったが、コロナの感染が世界に拡大した2020年は、前年から1466万台少ない7762万台に激減した。
その後、少しずつ生産台数は回復しているが、2022年は8250万台の生産にとどまり、依然としてコロナ前より968万台少ない。このペースで行くと、コロナ前の水準に戻るのは2025年以降になりそうである。
次に、図3に示した日本のクルマ生産台数を見てみると、2011年に一度落ち込んでいる。これは東日本大震災による影響であろう。その後、生産台数はすぐに回復し、多少の上下動はあるが、900万台以上の生産台数となっている。特に、コロナ前の2017〜2019年の3年間は、おおむね970万台前後で安定していた。
そこにコロナ騒動が起き、2020年は161万台少ない807万台に落ち込んだ。これは、東日本大震災の2011年以下の水準である。そして世界のクルマ生産台数は2021年以降回復していくが、日本では2021年に785万台(▲183万台)、2022年に776万台(▲192万台)と、年々生産台数が減少している(カッコ内は2019年の生産台数との差)。
コロナ直後に、世界も日本もクルマ生産台数が落ち込んだ。しかし、世界のクルマ生産台数は回復しているのに、日本の生産台数は減少の一途をたどっている。今のところ、その原因は分からないが、日本でクルマを買わざるを得ない筆者としては、かなりあんたんたる気持ちになる。
ここからは、日本のクルマ生産に焦点を当てて分析を進める。
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