前回に続き、第3項(2.3.3)「人間拡張」の概要を説明する。今回と次回で、「触覚」について解説する。
電子情報技術産業協会(JEITA)が3年ぶりに実装技術ロードマップを更新し、「2022年度版 実装技術ロードマップ」(書籍)を2022年7月に発行した。本コラムではロードマップの策定を担当したJEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会の協力を得て、ロードマップの概要を本コラムの第377回からシリーズで紹介している。
本シリーズの前回からは、第2章「注目される市場と電子機器群」の第3節(2.3)「ヒューマンサイエンス」より第3項(2.3.3)「人間拡張」の概要説明を始めた。「人間拡張」とは、人間の能力を補ったり高めたりするとともに、新たな能力を人間に獲得させる技術の総称である。「ヒューマン・オーグメンテーション(Human Augmentation)」あるいは「オーグメンテッド・ヒューマン(Augmented Human)」とも呼ばれる。
前回は「人間拡張」の対象となる4つの能力(「身体」「感覚」「認知」「存在」)を拡張する要素技術を説明するとともに、「2022年度版」のロードマップに掲載した内容と過去の「2019年度版」および「2017年度版」の違いを解説した。目次では「2.3.3.4 本章で取り上げる人間拡張のスコープ」までの部分に相当する。今回は次の項目である、「2.3.3.5 触覚」の概要を前後編で述べる。
「触覚」には、さまざまな感覚の中では最も基本的なものでありながら、代表的な感覚器官を持たないという特長、あるいは特異さを有する。五感の中で視覚は眼、聴覚は耳、嗅覚は鼻、味覚は舌といった感覚器官に代表される。
ところが触覚は皮膚全体が感覚器官であり、さらには筋肉や関節などの皮膚とは異なる人体内部での感覚が存在する。これらを含めて「体性感覚(somatosensation)」と呼ぶ。繰り返すと体性感覚は人体の表面すなわち皮膚の感覚(皮膚感覚)と人体内部の感覚(深部感覚)に分かれている。そして最も広い意味での「触覚」は体性感覚と等しい。
触覚を皮膚感覚に限定すると、まず「触覚(狭義の触覚)」がある。これは文字通り、何かに触れたときの感覚で、柔らかい、硬い、滑らか、ゴワゴワ、ザラザラ、ツルツルなどの言葉で表現される。それから皮膚が圧迫を受けたときの感覚「圧覚」、痛みを感じる「痛覚」、温かさを感じる「温覚」、冷たさを感じる「冷覚」がある。
皮膚感覚は、皮膚の内部に存在するさまざまな感覚受容器が刺激を受けることによって生じる。感覚受容器には、「パチニ小体(Pacinian capsule)」「ルフィニ終末(Ruffini ending)(ルフィニ小体(Ruffini corpuscle)とも呼ぶ)」「マイスナー小体(Meissner corpuscle)」「メルケル細胞(Merkel cell)(メルケル盤(Merkel disc)とも呼ぶ)」「自由神経末端(free nerve ending)(感覚神経終末(Sensory nerve ending)とも呼ぶ)」がある。
パチニ小体は高い周波数(250Hz〜300Hz)の振動を検知する受容体であり、刺激が与えられ始めた瞬間だけは鋭敏に反応し、刺激が続くとすぐに反応しなくなる(「順応が速い」とも呼ぶ)。ルフィニ終末は皮膚の引っ張りに反応し、順応は遅い。マイスナー小体は低い周波数(30Hz〜40Hz)の振動(ゆらぎ)に反応する。順応は速い。メルケル細胞は軽い圧迫に反応し、順応は遅い。
自由神経末端は痛み(つままれた痛みとヒリヒリした痛み)、温かさ、冷たさに反応する。順応は極めて遅い。
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