今回は、第2項(2.3.2)「メディカル」の最後の項目、「バイオセンサ」を取り上げる。
電子情報技術産業協会(JEITA)が3年ぶりに実装技術ロードマップを更新し、「2022年度版 実装ロードマップ」(書籍)を2022年7月に発行した。本コラムではロードマップの策定を担当したJEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会の協力を得て、ロードマップの概要を本コラムの第377回からシリーズで紹介している。
本シリーズの第6回からは、第2章「注目される市場と電子機器群」の第3節(2.3)「ヒューマンサイエンス」より第2項(2.3.2)「メディカル」の概要を報告してきた。「メディカル」は4つの項目、すなわち「手術支援ロボット」(2.3.2.1)、「マイクロ流体デバイス」(2.3.2.2)、「感染症とPCR検査、遺伝子検査、迅速検査」(2.3.2.3)、「バイオセンサ」(2.3.2.4)で構成される。
前々回と前回は、「感染症とPCR検査、遺伝子検査、迅速検査」(2.3.2.3)の概要を前後編で説明した。今回から、「バイオセンサ」(2.3.2.4)の概要をご報告していく。
「バイオセンサ」(2.3.2.4)は、以下の5つの項目で構成される。「2.3.2.4.1 バイオセンサのプローブに用いられるバイオ分子」「2.3.2.4.2 夾雑物(きょうざつぶつ)の非特異吸着を抑止するためのブロッキング膜」「2.3.2.4.3 プローブやブロッキング膜のセンサ表面への固相化」「2.3.2.4.4 センシング信号検出方法(センサ素子)」「2.3.2.4.5 バイオセンサの課題」である。
通常のセンサは、圧力や加速度、温度、湿度、光、音波、振動などを検出する。ヒトの五感に当てはめると、視覚と聴覚、触覚に相当する。これに対してバイオセンサが検出するのは特定の化学物質である。可燃性ガス、揮発性有機化合物(VOC)、乱用薬物、毒物、劇物、爆薬、病原体などが対象となる。ヒトの五感では嗅覚と味覚に相当する。
このような化学物質を選択的に検出するのが、「バイオ分子」と呼ばれる生体由来の材料である。そしてバイオ分子が目的の化学物質を検出したことによる何らかの変化を、「信号変換素子」が電気信号に変換する。なおバイオセンサでは「バイオ分子」を「プローブ(認識部)」、「信号変換素子」を「センサ素子」と呼ぶことがある。
バイオセンサのプローブとなる生体由来材料には、抗体(免疫グロブリン)、核酸アプタマー、酵素、分子インプリンティング、糖鎖、レクチン、Gタンパク質共役受容体、イオンチャンネル、イオノフォアなどがある。各材料の詳細はロードマップ本体を参照されたい。
プローブに夾雑物が吸着すると、しばしば誤検出を引き起こす。そこで夾雑物の吸着を防ぐ「ブロッキング膜」あるいは「アンチファウリング膜」と呼ぶ生体由来膜によってセンサ表面を被覆する。アンチファウリング膜には、牛(ウシ)血清アルブミン(BSA:Bovine Serum Albumin)やポリエチレングリコール(PEG:PolyEthylene Glycol)、リン脂質(Phospholipid)、スルホベタイン(Sulphobetaine)などが使われる。
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