OpenTitanは、もちろん完璧ではないが、最初の段階からこうした危険を回避することを重要目標に掲げ、lowRISC Silicon Commonsフレームワークを介してうまく対応している。
OpenTitanがオープンソースシリコンプロジェクトのレベルを有意義に引き上げることができた背景には、リポジトリの準備、強固なコミュニティーによる積極的なサポートなどがそろっていたからだと考えられる。
OpenTitanは当初から、基本を正しく理解することを重要視してきた。半導体チップ設計のような大規模かつ複雑なエンジニアリングプロジェクトに強力な基盤を組み込むとなると、法外なコストが掛かるため、最初から正しい方法で実行することが、結局は近道になる。
OpenTitanの32ビットRISC-Vマイクロコントローラー「Ibex」は、Silicon Commonsの事例の一つである。このプロセッサは、プロジェクトメンバーのETH Zurichが、OpenTitan発足前に開発したものだ。ベースラインとなるIPがETH Zurichから提供された後、lowRISCはパートナーのエンジニアたちとともに、設計検証やドキュメンテーション、性能の向上、デュアルコアロックステップなどのセキュリティ機能の追加などを行い、設計を強化した。
OpenTitanやSilicon Commonsの構築に費やした時間やコスト、労力を考えると、「そもそもなぜ、複雑なシリコンの設計をオープンソース化しようとしたのか」と不思議に思われるかもしれない。理由は3つある。
まず、現在のサイバーセキュリティと地政学的環境において、RoTはあまりにも重要な要素であり、無視することはできないからだ。2つ目として、OpenTitanは、「チップのサプライチェーン全体にわたってシリコンのセキュリティを向上させる」という長期的な視野の下、業界の全ての人が、高品質かつ寛容なライセンスによるRoTシリコンの実装を可能にしたい、という目的のために発足したプロジェクトだからである。3つ目は、単純にわれわれであればオープンソース化が可能であり、むしろやらねばならぬことであったからだ。
これら3つを、特に強調しておきたい。パンデミックにおける半導体不足をきっかけに、シリコンのサプライチェーンの脆弱性が声高に指摘されるようになったが、そもそもシリコンのサプライチェーンは、これまでも常に脆弱だった。地政学的な緊張が高まる中、「世界のシリコンの半分以上が単一エリアで製造されている」という現状が、重大なリスクと見なされるようになっているのは周知の通りだ。
オープンソースであれば、特定の生産者に縛られることなく、複数の企業が互換性のある設計を並行して構築できるため、本質的にセカンドソーシングがしやすくなる。さらに重要なのは、その設計の“出自”が(設計の開始時から)可視化され、監査可能であるという点だ。安全かつ一貫性のあるサプライチェーンは、堅ろうで信頼性の高いサプライチェーンだといえるだろう。
※筆者のGavin Ferris氏は、lowRISCのCEO(最高経営責任者)である。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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