メディア

ChatGPTは怖くない 〜使い倒してラクをせよ踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(18)(1/11 ページ)

ある日突然登場し、またたく間に世間を席巻した生成AI「ChatGPT」。今や、ネットでその名を聞かない日はないほどです。このChatGPTとは、一体何なのか。既に数百回以上、ChatGPTを使い倒している筆者が、ChatGPTの所感をエンジニア視点で語ってみたいと思います。

» 2023年05月15日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]
踊るバズワードアイコン

「業界のトレンド」といわれる技術の名称は、“バズワード”になることが少なくありません。“M2M”“ユビキタス”“Web2.0”、そして“AI”。理解不能な技術が登場すると、それに“もっともらしい名前”を付けて分かったフリをするのです。このように作られた名前に世界は踊り、私たち技術者を翻弄した揚げ句、最後は無責任に捨て去りました――ひと言の謝罪もなく。今ここに、かつて「“AI”という技術は存在しない」と2年間叫び続けた著者が再び立ち上がります。あなたの「分かったフリ」を冷酷に問い詰め、糾弾するためです。⇒連載バックナンバー


「文章嫌い」を劇的に変えた、あのマシン

 私は、文字を書くのが嫌いな子どもでした。

原稿用紙の図

 小中学生の頃に強要された「漢字の書き取り」は拷問でした。ですから、「大工」という漢字を、毎日100文字書いて、提出していただけでした。右の書取りノートを見ただけで、今でも、嘔吐感が込み上げてきます。

 私は、文章を作るのが嫌いな子どもでした。

 「毎日の日記」の記載と提出に至っては、何を書いて良いのか分からずに、毎日、以下の3行フレーズを、『てにおは』を変えて提出するだけでした。

今日は、天気だった。
今、お風呂から上って、いい気分だ。
明日もいい天気かな

 上記の「大工100文字」の書き取り、そして、「3行お風呂日記」を毎日提出していましたが、別段教師から叱責されたことはありません。私だけでなく、教師の方も『こんなもの、どーでもいい』と考えていたことは明らかでした ―― このようなくだらない無駄が、対象をいろいろ変えながらも、高校卒業まで続きました。

 ところが、この私の、『文字を書くのが苦痛、文章を作るのが嫌い』を、一瞬にしてひっくり返すものが登場します ―― ワードプロセッサ(ワープロ)です。

 私の記憶の中にある最初のワープロは、液晶画面に10文字しか示せず(本当)、自分が、今、原稿のどの辺を書いているかは、その液晶上のビュー画面に切り替えて確認するしかない、というものでした。

ワープロ

 『確か、購入したのは大学の1年生の秋だった』という記憶と合わせて調べてみたところ、多分、そのワープロは、右図(東芝JW-R10)であったと推認されます。

 なぜ私が、当時の最高級の機械(ワープロ)を使えたかというと、パソコンショップの店員をやっていたからです。『自分が使えないものは、お客様には売れない』と思いましたので、パソコンショップで、マニュアルと首っ引きで、使い方を勉強していました。

 そうしているうちに、そのパソコンショップの広告やら、商品説明のラベル(今でいうところの”ポップ”)の作成なども頼まれるようになりました。

 そして、私は、店員割引価格で購入したJW-R10によって、人生のシンギュラリティポイントを迎えることになります ―― 第2の江端の覚醒です。

 覚醒後の私は、大量文章製造マシンと化します。自分が思考する速度で、そのまま文章が書けることに驚き、頭の中を全部文章で書き出す勢いでした。しかしながら、その道のりは険しいものでもありました。

 大学在学中、私はワープロで書いた手紙を友人に出して、友人から「思いが伝わってこない」と非難されました。大学に「ワープロで作成した実験レポート」を提出した時には、大学教授からは『手書きレポートしか受理しない』と言われ、ワープロの文章を、再度手書きに書き直しました(本当)。

 しかし、大量文章製造マシン・江端はくじけません。会社に入社後には「日立こぼれ話」という内部暴露コラムを、定期的に友人や親類に『紙に印刷』して『郵送する』という、(今になって思えば、手紙を受けとった人には随分な迷惑な)行為に及びます*)

*)未公開の「日立こぼれ話」 総計456話は、私の退職後に、一斉公開予定です。

 その当時、電子メールを使える人はごく一部の人間でした。電子メールを使う人は、『オタク』と言われて、世間から石を投げられる存在だったのです。しかし、私は大量文章製造を止めようとは思いませんでした ―― ラクだったからです。

そして、今回のコラムの趣旨は、この『ラクは正義である』です。

編集担当Mさんからの、1本のメール

 こんにちは、江端智一です。

 ご報告が遅れましたが、私、2022年10月、社会人大学院に入学しました。その動機や経緯や詳細については、おいおいお話させていただきたいと思いますが、社会人と大学生の両立は、私の想像を越えた世界でした。どういう世界かというと、『激務で、入院がスコープに入ってくるくらい』でした。

 まだ、半年しか経過していませんが、既に大学院の入学を後悔し始めています。しかし、皆さんに語るべきネタは格段に増えました。この大学のネタだけで2〜3本くらい、コラムが書けると確信できるレベルになっています。

 そういう背景があり、EE Times Japanの編集担当のMさんに事情を説明し、『倒れますか? 書きますか?』という感じの『恫喝(どうかつ)』『ご相談』をさせていただき、私の執筆の頻度を調整していただいています。

 ところが、先日、Mさんから、珍しく、以下のメールが届きました。

江端様

お世話になっております。

次回以降の原稿につきまして、ご相談です。

「お金に愛されないエンジニア」の続きも読みたいのですが、「踊るバズワード 〜Behind the Buzzword」として、ChatGPTを取り上げていただけないでしょうか。

ChatGPTはまさしく「バズワード」になっていて、技術的な優位性と社会的な問題点とが、毎日のようにアップデートされ、カオスになっていると感じます。この辺りで、江端さん視点で語っていただきたいのです。

一度、江端さんにChatGPTのテーマを取り上げていただく、ということが重要なので、結論が「よく分からん」「興味がわかない」などでも構いません。

ご検討いただけますと嬉しいです。よろしくお願いいたします。

編集担当M


 このメールを見た瞬間、

 ―― やはり、来たか

と思いました。

 最近、NHKのニュースでも、ChatGPTについて毎日のように報道されていますし、新聞ではトップニュース扱いです。そして、これまでのAI技術のアプリケーションとしては、最も多くの人に使われていることは間違いありません。なにしろ、こんなラクなインタフェースで使えるAI技術のアプリケーションは、人生でもめったに出会えるものではありません。

 例えば、「江端智一について教えて」と入力するだけです。こんな感じで。

 このMさんからのご依頼は、私にとっても「渡りに船」のお話でした。

 私は、こちらの連載「Over the AI ――AIの向こう側に」において、ちゃんとした根拠と自分なりの検証結果を用いて、”AI幻想論”を繰り返し主張し続けてきました。

 しかし、このChatGPTと出会ってからは、『もしかしたら、私の"AI幻想論"は、壊れたのかもしれない』という、疑問(というか恐怖)を感じました。何しろ、本当の人間が、私の質問に応えているかのように感じられたからです。そして、実際にこのChatGPTを仕事や大学の勉強に使い倒しており、その便利さに、今なお、驚き続けているからです。

 「非常に優れたメンター、またチュータが、私の横に座っているかのような安心感」は、これまでのAI技術にはない経験で、私の”AI幻想論”を激しく揺らしていたからです。

 ですので、前々から、『ChatGPTについて、チャンスがあればちゃんと調べて理解したい』と、と思っていたのです。

 現時点で、ChatGPTは、課題山積の成長過程にあるAI技術であるのは事実です。例えば、上記の「江端智一について教えて」に対する4月29日のChatGPTの回答は以下の通りでした。

江端智一について教えて


江端智一(えばた ともかず)は、日本のプログラマーであり、AIの研究者でもあります。彼は、OpenAIという非営利研究組織で働いており、大規模言語モデルの開発に関わっています。また、彼はGPT-3という言語モデルの開発に重要な役割を果たし、その性能に貢献しました。

江端智一氏は、東京大学大学院情報理工学系研究科で博士号を取得しており、専門分野は自然言語処理と深層学習です。彼は、言語処理技術を利用したさまざまな応用分野の研究に取り組んでおり、その成果は高く評価されています。


 この「江端智一」なる人物が、α世界線、β世界線、はたまたシュタインズゲート世界線の江端智一なのか、私には分かりません*)が ―― ともあれ、

―― 今日も、ChatGPTは、盛大に、私を爆笑させています。

*)関連記事:「「シュタインズ・ゲート」に「BEATLESS」、アニメのAIの実現性を本気で検証する

 それでは、始めたいと思います。

       1|2|3|4|5|6|7|8|9|10|11 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSフィード

公式SNS

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.