東京大学は、3個の光パルス(3量子ビット相当)で、さまざまな計算ができる独自方式の「光量子コンピュータ」を開発した。拡張性と汎用性を兼ね備えており、「究極の大規模光量子コンピュータ」の実現を加速させる。
東京大学大学院工学系研究科の武田俊太郎准教授らによる研究チームは2023年7月、3個の光パルス(3量子ビット相当)で、さまざまな計算ができる独自方式の「光量子コンピュータ」を開発したと発表した。拡張性と汎用性を兼ね備えており、「究極の大規模光量子コンピュータ」の実現を加速させる。
武田氏らは、大規模な計算でも最小規模の光回路で効率よく実行できる「究極の大規模光量子コンピュータ」方式を2017年に考案した。それは、量子ビットの情報を乗せた多数の光パルスを時間的に一列に並べ、大きなループの中に閉じ込めた上で、その中に1個の計算回路を組み込むというもの。この構造だと、多数の光パルスが1個の計算回路を繰り返しループしながら、何ステップでも計算を続けることができるという。また、2021年には光量子プロセッサを開発し、1個の光パルス(1量子ビット相当)で計算を行う動作を確認した。
今回は、複数個の光パルスを用いて計算できる光回路の開発に取り組んだ。開発したのは、情報を乗せた3個の光パルス(3量子ビット相当)で計算できる独自方式の光量子コンピュータである。2021年に開発した光量子プロセッサを、複数個の光パルスを蓄えるメモリの役割を果たすループの中に組み込むことによって実現した。
具体的には、光量子プロセッサの外側に、2個分の光パルスを蓄えることができる大きなループを付け加えた。開発した光回路は、1周が約40mという大きなループの中に、1周が約20mの小さなループが入れ子になった2重ループ構造となっている。2つのループについて、それぞれ1周の長さをナノメートル級の精度で安定化させる制御技術も開発した。
さらに、「可変位相シフター」「可変透過率ミラー」そして、「2個の光スイッチ」という、2重ループ回路内の4つの可変要素を、光パルスの動きに時間同期しながらナノ秒精度で切り替える制御システムも開発した。これらの技術を組み合わせることで、複数個の光パルスに対して計算が行えるようになったという。
研究チームは、開発した2重ループ構造の光量子コンピュータを用いて、「線形光学変換」と呼ばれる計算処理を行った。従来の方式だと、光パルス数が増えるにつれて光回路が大規模化するという課題があった。
これに対し、開発した2重ループ回路では、光回路の規模を変えることなく、外側のループを大きくするだけで、扱える光パルスの数を増やすことが可能なことを実証した。しかも、プログラムを書き換えてミラー透過率などの切り替えパターンを変更するだけで、光回路構成を変えずに、あらゆる線形光学変換が行えるという。
今回の実験では、「スクイーズド光」と呼ばれる量子的な光パルスを、2重ループ回路に3個送り込み、9種類の線形光学変換を行った。これにより、それぞれ光パルスが期待した通りに変換されていることや、変換後に量子性を保っていることを確認した。
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