東京大学の研究グループは、Nanjing Universityなどと共同で、異なる結晶構造を持った二次元結晶(二セレン化タングステン[WSe2]とリン化ケイ素 [SiP])を重ねた界面に円偏光を照射すると、スピン偏極した光電流が流れることを発見した。
東京大学の研究グループは2023年6月、Nanjing Universityなどと共同で、異なる結晶構造を持った二次元結晶(二セレン化タングステン[WSe2]とリン化ケイ素[SiP])を重ねた界面に円偏光を照射すると、スピン偏極した光電流が流れることを発見したと発表した。観測した光電流は、電子の幾何学的性質によって説明できるという。
三次元層状物質を剥がして作製する二次元結晶の界面は、元の二次元結晶にはない特徴的構造となり、新たな物性や機能性を発現することがある。しかし、二次元結晶界面の対称性に着目した研究事例は、まだ少ないという。
今回の研究では、WSe2とSiPを重ねて、対称性が低い二次元結晶界面(WSe2/SiP界面)を作製した。WSe2とSiPには、回転対称性や複数の鏡像対称性がそれぞれ存在するが、WSe2/SiP界面では回転対称性が損失、鏡像対称性のみ存在するという。
研究グループは、作製した二次元結晶界面に流れる光電流について、照射光の偏光を変化させながら測定した。この結果、鏡像面と垂直方向に円偏光に依存する光電流の成分を観測できた。これに対し、鏡像面と垂直方向にはこうした応答は見られなかった。これは、スピン偏極キャリアが鏡像面に垂直な方向に整流され、円偏光に依存する光電流として観測されていることを示すものだという。
磁性体電極を用いたデバイスによる測定でも、実際に光電流がスピン偏極していることが明らかとなった。また、円偏光に依存する光電流成分の照射光波長依存性などを調べたところ、光電流は電子の幾何学的性質を反映した量子力学的機構によって説明できることが分かった。
今回の成果は、東京大学物性研究所の井手上敏也准教授と東京大学大学院工学系研究科の岩佐義宏教授(理化学研究所創発物性科学研究センター創発デバイス研究チームのチームリーダー兼任)らによる研究グループと、Nanjing University、Princeton University、University of California at Berkeleyとの共同研究によるものである。
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