東京工業大学らによる共同研究チームは、光アイソレーターの回路面積を従来の10分の1以下にできる技術を開発した。磁気光学結晶を1μm以下まで薄膜化して中空に保持されたシール構造に加工する技術と、シリコン光回路上の任意領域へ高精度に貼り付ける転写技術を開発し、それを適用することで実現した。
東京工業大学科学技術創成研究院未来産業技術研究所の庄司雄哉准教授と産業技術総合研究所プラットフォームフォトニクス研究センターの高磊(こうらい)主任研究員らによる共同研究チームは2023年8月、光アイソレーターの回路面積を従来の10分の1以下にできる技術を開発したと発表した。磁気光学結晶を1μm以下まで薄膜化して中空に保持されたシール構造に加工する技術と、シリコン光回路上の任意領域へ高精度に貼り付ける転写技術を開発し、それを適用することで実現した。
光アイソレーターは、光通信システムなどにおいて反射戻り光をカットするために、レーザー光源や光増幅器と組み合わせて用いられる光素子である。ところが、高性能な光アイソレーターを構成する結晶材料は特殊で、構造が異なる結晶同士を密接に一体化し、1つの光回路に組み込んで光集積回路を実現することは、極めて難しかったという。
研究チームは今回、薄膜転写技術を用いることで異種材料結晶を微小な薄膜シールに加工し、シリコン光回路上に集積する「マイクロトランスファープリンティング」技術を開発した。この技術を活用し、回路面積が小さい光アイソレーターを作製することに成功した。
具体的な作製工程はこうだ。まず種基板(SGGG)上に成長させたセリウム置換イットリウム鉄ガーネット(Ce:YIG)結晶を薄膜化し、その上で中空に保持されたシール構造に加工する。加工した薄膜シールの長さは縦が800μm、横が50μmで、厚みは1μm以下である。
次に、あらかじめ形状加工しておいた高分子エラストマーフィルムに、Ce:YIG結晶の薄膜シールを貼り付けて持ち上げる。この薄膜シールを、シリコンウエハー上に形成したマッハツェンダー干渉計と呼ばれる光回路の一部に、高い位置精度で転写し光アイソレーターを作製した。
試作した光アイソレーターに近赤外領域の光を入力し、外部磁場で磁気光学効果を制御して光出力特性を測定した。この結果、順逆方向遮断比96%(14dB)という良好な光学特性が得られることを確認した。
今回の研究成果は、光送受信機に用いる光トランシーバーチップの小型化と高性能化につながる技術だとみられている。研究チームは今後、光アイソレーターとしての光学特性をさらに高めていく。また、複数素子の一括形成や信頼性検証など、実用化や量産化に向けた研究開発を進める予定である。
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