一方、このレポートには、年金受給のカウントダウンに入っている私のようなシニア向けの説明がない ―― これが大問題でした。
つまり、若者のように老後まで残された時間がない人間を安心させるような説明、例えば、「あんたたちは、もう(投資戦略などには)間に合わないけど、それでも、あんたの老後は大丈夫なんだよ」という説明が、レポートの中に一言も記載されていなかったのです。
私はここに、金融庁のワーキング・グループのメンバーのジレンマを見て取りました。
うかつに「大丈夫」と言えば、若者が投資モチベーションを失うかもしれなません。だからといって、「不安」と言えば、私のようなリタイア準備軍、またはリタイア正規軍から、「政府は嘘をついていたのか!」とクレームの嵐がくるのは当然です ―― で、まあ、実際にそうなったのです。
麻生さんは、当初、このレポートの内容を絶賛……とまでは言わないまでも、「まあ、おおむね妥当」というコメントをしていましたが、後日、「政府としてはこのレポートを受け取らない」と言い出したので、私もすごく不安になったのを覚えています。
そんでもって、
2000万円! ―― そんな金、わが家のどこにあるんだ? みんな「金がない」とか言いながら、私をダマしていたな! みんな、嘘つきだ!!
という、被害妄想に陥ったわけです(今も、陥っています)。
いずれにしても、この「2000万円問題」が国民に与えたショックは相当なものでした。
正直、国民がどう考えようが構わないのですが、私の娘(長女)までも、日本の年金システムが破綻する、と思い込んでしまい、『国民年金保険料の支払いを止めようかと考えている』と言い出しました。
私は、長女に対して、「ロジカルに考えれば、日本の年金システムがなくなることは、ないと思うよ」と、以下の理由を掲げて説明しました。
第1に、『年金制度の廃止 = 日本国国家の崩壊』となるからです。もっとも、「国家の崩壊」とはどういうことかについて、実は誰もはっきりしたことを言っていないのですが、少なくとも、デフォルト(国債の債務不履行)は、国家の崩壊ではありません。
調べてみればすぐに分かりますが、デフォルトなんぞ、世界中で何度も起こっています(最近では、あの米国でさえも、デフォルトになりかけました)*)。
*)関連記事:「定年を自覚したエンジニアがひねり出した“投資のHello Worldアプローチ”」の「デフォルトって何?」
第2に、年金制度を破綻させたら、どんな政権も成立しえないからです。国会の目的は、一言で言えば「幸福な国民生活を実現するための法律の制定」であり、政府は、それを実行する主体です。「納税できなくなった国民はみんな死ねばいい」というような公約を掲げる政党は存在できませんし、仮に政府がそのような政策を実施すれば、暴動どころか革命が起こります。
第3に、そこまで過激ではないにしろ、「納税できなくなった国民を露骨にないがしろにする国家 ―― 日本」というイメージが確定すれば、その国家は、国際的な信用を失います。まず、国際通貨としての円は、紙くず同然になり、支払い能力を失った日本は、間違いなく国際的なサプライチェーンから排除されます。
年金制度の廃止によって、餓死する老人が路上に放置される国家 ―― 私は長女に、「そんな日本が、自分の人生に登場することがイメージできるか?」 と、問いかけました。
もっとも、これから、年金サービス(金額)はショボくなっていくと思いますが、年金制度を廃止する国家を、私はイメージできません。
むしろ、年金の金額が生存を担保できないほど低くなって、国内での餓死者が出れば、政府は、自衛隊のイージス艦やF-15を売却してでも、その財源を確保するはずです。これは、国家の面子(メンツ)や体面の問題だからです。
というわけで、長女には、『国民年金保険料の支払いは続けておけ』と言っておきました。
『もし、年金制度が崩壊して餓死するようなことになれば、その時は、この国(日本)と道連れに死ねるぞ。それは、それで悪くない玉砕、とは思わんか?』と言っておきました ―― この理屈が、自分の子どもに語る内容としてふさわしいかどうかは、さておき。
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