日本テキサス・インスツルメンツ(日本TI)は、同社美浦工場に高校生を招き、同工場の工業排水を処理するクローズドシステムの説明と施設見学を行った。同工場では毎日約500トン発生する工業排水を施設内で処理して再利用し、近接する霞ケ浦やその他の河川に一切放流していない。
日本テキサス・インスツルメンツ(日本TI)は2023年8月18日、同社美浦工場(茨城県稲敷郡美浦村)に茨城県土浦市内の高校生を招き、同工場の工業排水を処理するクローズドシステムの説明と施設見学を行った。
アナログICの前工程製造拠点として操業する美浦工場は、日本で2番目に大きい湖である霞ケ浦に近接している。半導体の製造過程で発生する大量の工業排水は、一般的には工場内で無害化処理をして近隣の河川などに放流する場合が多いが、同工場での工業排水は施設内の超純水クローズドシステムで処理し、約95%を超純水として製造工程に再利用している。処理しきれず残る約5%の廃液は外部の専門業者に処理を委託しているため、1980年の操業開始当初から霞ケ浦や他の河川には一切放流していない。
このような特殊な処理を行っている主な理由は、霞ケ浦の厳しい排水基準だ。茨城県は県内の河川や湖沼について排水基準を定める条例を制定しているが、湖は河川に比べて水の入れ替わりが遅いこともあり、霞ケ浦およびその隣の北浦を含む水域は特に化学物質の基準が厳しい。また、地元住民の意見も反映されたという。同工場で施設部部長を務める冨⽥学氏は「霞ケ浦は生活用水の水源、漁業や観光業の拠点になっている。操業開始にあたって水質の悪化や風評被害を心配する声もあり、排水を一切放流しないと決定した」と説明する。
美浦工場では毎日約500トンの工業排水が出ているという。超純水クローズドシステムの処理手順として、工業排水はまずタンクに回収し、中和/酸化/還元処理を行ったのち、蒸発/濃縮処理を施して水とそれ以外の物質を分離し、再生水にする。ここで水分が蒸発して残った濃縮液は外部の専門業者に処理を委託している。再生水にはこの後、UV酸化槽で紫外線照射とオゾン供給による有機物の分解/除去、活性炭塔で有機物や残留塩素の吸着/除去を行う。さらにUV殺菌器で殺菌の上、前処理フィルターで固形成分を捕捉/除去、2Bed(2床)イオン交換樹脂塔でイオン成分を吸着/除去する。続いて逆浸透膜装置でイオンや有機物を濃縮/除去、真空脱気塔で溶存ガスを除去し、紫外線照射で有機成分を分解/除去して、カートリッジポリッシャーとUF(Ultra Filtration)膜装置で最終的なイオン成分や微粒子を吸着/除去すると、超純水として工場で再利用できる状態になる。工場内の排水の大部分を再利用することで、補給する水の量を抑えられるというメリットもある。
今回の施設見学は土浦市が環境教育事業として市内在学の高校生を対象に行っている「高校生霞ケ浦ミーティング」の実地研修の一環として開催されたもの。参加した高校生は「貴重な経験になった」「霞ケ浦の水を大切に使いたい」と感想を語った。
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